第10話 クラスメイトと初交流……のはずがいきなり同棲バレ
「おはよーっす」
朝のホームルームが始まるから教室に戻りなさい。
冬星保健医にそう言われた一哲と加恋は、合体についてまた後で話を聞かせて欲しいと約束してから教室に向かった。
「巌流島君、おはよ~」
「
「うっわ、うっわ、うっわ」
「俺が格好良すぎてドン引きしなくても」
「じゃあ遠慮なく」
「待って、マジでドン引きしないで。距離を取らないで!」
「あはは、一哲君元気になったんだね」
「元気元気超元気!ってあれ、今俺の事?」
一哲が学園で初めて出会った女子は、含みのある笑みを浮かべて一哲の疑問をスルーした。
「桜ヶ平さんもおはよう」
「おはよう」
「こっちも顔色は良い、と。昨日何があったのかな?」
「な、何もありません」
「え~ほんとかな~」
「それより音乃葉さんも元気ですね。昨日はお困りの様子でしたのに」
「まぁね。私だけじゃなくて皆、どうにか気持ちの整理がついたみたいだよ」
加恋が教室内を見渡すと、確かに昨日よりも遥かに空気が柔らかくなっている。仲良くしているなんてことは全く無いが、険悪な雰囲気では無い。
「不思議だよね。昨日はあんなにヒートアップしてたのに」
「…………そうね」
「で、何があったの。教えてよ~」
「な、何も無いですよ。時間が経って冷静になっただけです」
「う~ん、それで解決するような雰囲気じゃなかったけどなぁ」
「それなら音乃葉さんはどうだったんですか?」
「私?私は我慢すればいっかって感じだったからすぐに受け入れたよ」
「受け入れられたの……ですか?」
「うん。桜ヶ平さんが抱えてそうな重いバックグラウンドとか無いし」
「な、何の事でしょう」
「あはは。今はこれ以上聞かないでおくよ」
琴遥が退いてくれたので、これ幸いにと加恋は逃げるように席に向かった。
「そんなことより琴遥! 俺と付き合おうぜ!」
「普通に嫌だけど?」
「あのぉ、照れも嫌がりもせずローテンションで言われると傷つくんですけど」
「傷つく? 一哲君が? まっさかぁ!」
「ぐおおおお!」
「一哲君!?」
背中をバンバンと思いっきり叩かれ苦悶する一哲。
そんな一哲に加恋が射殺すような視線を向けることは無い。むしろ、構って貰えて良かったわね、と言わんばかりに鼻で軽く笑っていた。
「せ、背中は勘弁してください」
「怪我してるの?ごめんね?」
「なら優しく撫で……あ、やっぱ良いです」
撫でられるだけで痛くて変な声を出してしまいそうだから自重した。
「結構酷いんだ。ということはもしかして、桜ヶ平さんが上だったの?」
「上?何のこと?」
「だ~か~ら、桜ヶ平さんに押し倒されたんでしょ?」
「はぁああああああああ!?」
「はぁああああああああ!?」
とんでもない発言に、席に戻っていた加恋までも立ち上がって驚き、慌てて琴遥に詰め寄った。
「わ、わわ、私がそんなことするわけないじゃないですか!」
「どうして俺があんな奴と!」
「だって背中が痛いってのはそういうことでしょ? 思いっきり固い床とかに押し倒されたのかなって」
その行動が何を意味するのか。
クラスメイト達は耳をそばだてて琴遥の話を聞き、その場面を想像してしまっていた。
「桜ヶ平さんの方が積極的ってのは、ギャップがあって良いよね」
「だから!私は!何もしてません!」
「俺は何もされてないんだって!信じてくれ!」
「それは絶対に嘘だよ。だって証拠があるもん」
琴遥は優しい手つきで、一哲の頬を優しく撫でた。
大きなガーゼが貼られ、痛々しく見えるその場所に。
「馬乗りになって殴られたんでしょ。ケンカして仲が深まったから昨日とは雰囲気が違ったんだね」
「…………」
「…………」
「あれ? 黙っちゃってどうしたの? もしかして何か違うこと想像してたの?」
ぴゅあぴゅあな顔でそう問いかける琴遥だが、もちろん演技。
ケンカして一哲が殴られたと思っていたのなら『桜ヶ平さんが上だったの?』というセリフが自然では無いからだ。殴った方が上なのは自然な形であり、疑問には思うまい。
「じゃあまさかホントは……」
「ふん!」
「ぎゃああああ!てめぇ何しやがる!」
「こいつは階段から落ちただけ。保健室の先生に聞けば分かるわよ!」
「それ言うだけなら叩く必要なんて無いだろうが!」
「ふん!」
背中を叩かれて憤慨する一哲だが、加恋は無視して座ってしまった。
昨日までの一哲なら続けて文句を言いそうなものだが、ケンカに発展することは無かった。
「すごーい。ホントに変わったんだね。
ピシリ、と教室内の空気が固まった。
「な、なな、何を言ってるのかな? 琴遥ちゃ~ん?」
「だって昨日、桜ヶ平さんの部屋が空き部屋になってたから。辞めちゃったのかなって思ったけど、こうしてここにいるってことは別の場所に移動したってことでしょ。この学園で他の寮って言ったら恋人寮しかないじゃん」
見事な推理にぐぅの音も出ない。
そして即座に否定しないということは正解の可能性が高いということ。
「そういえば巌流島の部屋も空になってた……」
誰かがポツリと呟いた。
二人が寮から消え、退学していない。
全寮制で寮は二種類のみ。
不自然に仲が改善された二人。
「がああああんりゅううううじまあああああ!」
「うお!なんだおま!ぎゃああああ!肩組むな!背中が!背中がああああ!」
突然男子の一人が一哲に突撃し、力強く肩を組んで密着して来た。
その衝撃で背中が痛んでしまう。
「この野郎!なんて!うらやま!しいんだ!あんな!美少女と!初日から!しっぽりだと!?」
「止めろ!近い!キモイ! 何なんだよお前は!」
「俺は
「おお、同志じゃないか!」
背が高く、髪を茶色に染め、ピアスをし、制服をだらしなく着崩しているチャラそうな男子生徒。一哲は彼に自分と似たような香りを感じ、一気に歓迎ムードになった。
「そうだ!同志だった!だが今は違う!」
「何故だ!?」
「抜け駆けしやがって!」
「だから何もしてないって言ってるだろ!?」
「年頃の男女が同棲してナニも起こらないわけないだろぉ!?」
「(同棲どころか合体したって言ったらこいつどんな反応するかな)」
少しだけ興味があったけれど、より面倒なことにしかならないと分かりきっていたのでぐっと我慢した。
「お願いします!センセイ!」
「先生?」
「俺に!恋のイロハを!教えてください!どうやったら!女子と!同棲できますか!?」
「それ俺が教えてもらいたいくらいなんだが……」
「それと!」
茶鳩は顔を一哲により一層近づけ、超小声で問いかける。
「どんな感じだったか教えてくださいよぉ」
「なんでいきなり小物キャラになるんだよ」
「たっぷり堪能したんでしょ。やっぱり柔らかかったですか?」
「あのなぁ、遊佐」
一哲は溜息をつきながら、どうにか茶鳩から身体を離す。
「お前とは良い友達になれそうだ」
「おう!センセイ!よろしくな!」
固い握手をする二人の様子を、女性陣が冷たい眼で見ていた。あっという間に好感度を最底辺まで下げた手腕は凄まじい。
「それで遊佐の、いや、茶鳩のバディは?」
「なんで今それを!?」
「だって俺のことばかり知られるのはフェアじゃないだろ」
「別に大した奴じゃないさ」
「そうね。私は大した人間じゃないわ。普通の人よ」
丁度話題に挙がったタイミングで、一人の女生徒が一哲達の元へ近づいてきた。
黒髪を肩口で揃え、スカートは膝丈で、ソックスも常識的な色や長さ。誰が見ても『普通』に感じる女子高生なのだが、見た目がチャラい茶鳩と並ぶと堅物真面目キャラに見えるから不思議なものだ。
「
「恋愛話? ということはまゆゆは俺を受け入れてくれるのか!?」
「ツッコミどころが多すぎるわね。とりあえずその呼び方は炎上しそうだからやめてくれないかしら。それと巌流島君は好みじゃないけど、恋愛はすれば良いんじゃない?」
「いやっほおおおおう!」
「ちゃんと話を聞いているのかしら」
まるで恋人になってくれると言われたかのような喜びように、真祐は眉を
「でもあまり騒ぎすぎて周囲に迷惑をかけないこと」
「え?」
「社会には節度と風紀というものがあるの。巌流島君はそれを壊しかねないから先に注意しておくわ」
「…………茶鳩。頑張れ」
「ちっ」
真祐は加恋ほど、青春に不理解なわけではない。
むしろ胸躍る恋愛物を求めているくらいだ。
だがそれはあくまでも常識的な範囲内に留めるべきだと考えている。
高校生としてあるまじき行動はすべきでなく、目についたらクラスの風紀を乱さないように注意する。
風紀委員タイプ。あるいはクラス委員長タイプ。
チャラい茶鳩にとって天敵と言える人物だったのだ。
「遊佐君。せめてピアスは外しなさい」
「わ~ったよ!」
茶鳩はむしり取るようにピアスを外し、不満を隠そうともせずに席へと戻った。
「後、巌流島君」
「俺も!?」
「同棲で浮かれるのは良いけれど、教室内では過度にイチャつかないでね」
「な!?」
「それと桜ヶ平さんのことをちゃんと考えて優しく接すること。決して勢い余って子供を作ったりしちゃダメよ」
「おいいいい!?」
「そんなことするわけないでしょおおおお!」
今日何度目かの二人揃っての叫び。
誤解は中々解けないのであった。
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