第4話 嘘……私(俺)達……入れ替わっ……合体!?
「今日はこのホームルームで終わりになりますが、各自バディとよ~く話をしておくことを推奨します。以上」
これ以上抗議の声を聞くつもりは無いと言わんばかりに、窓理教師はさっさと教室を出てしまった。
残された生徒達は果たして窓理教師の言う通りに話をするのだろうか。
「チッ」
「…………」
初日から制服を着崩しているチャラそうな男子生徒が、不機嫌そうに席を立った。すると遅れてそのバディも無言で教室を出てしまう。
それをきっかけに、ポツポツと生徒達は寮へと帰宅する。
どの組も全く話などせずに。
まだまだ不満は言い足りず、言い争いだってしたいくらいだ。
だが一度静かになってしまったことで、他人にその争いを見られてしまうかもしれないと意識してしまい、恥ずかしくて出来なかった。
ゆえに教室外の人気の無い場所でお互いの不満をぶつけあうのが毎年の恒例行事となっていた。
では一哲達はどうするのか。
「…………」
「…………」
一哲は両手を頭の後ろで組んで背もたれに寄りかかりながら目を瞑って黙っている。
加恋は綺麗な姿勢で座ったまま、これまた目を瞑って黙っている。
やがて教室内に誰もいなくなってから、二人は席を立った。
そのままそこで口論をするのかと思いきや、そのまま教室を出て歩く。
そして階段の踊り場まで辿り着いた時、先を歩いていた加恋が歩みを止め、一哲に背を向けたまま口を開いた。
「辞めなさいよ」
「あ?」
「だから、この学園を辞めなさいよ。あなた私の事が気に入らないんでしょう。だったら辞めれば良いじゃない」
バディの変更が出来ないのであれば、バディがいなくなれば良い。
そうすれば学園も再編せざるを得ないはずだと加恋は考えたのだろう。
「だったらお前が辞めろ。勉強なんか何処でも出来るだろ」
「私はここじゃなきゃダメなの!」
一哲の言葉を受けて加恋は振り返り激怒する。
「あんたこそ女の子を追いかけるなんてここじゃなくても出来るじゃない! さっさとここから消えてよ! 私の邪魔しないでよ!」
「うるせえな! なんで俺が面倒なことしなきゃならねーんだよ! てめぇが消えろ!」
「嫌な女と毎日一緒に勉強するのなんて嫌なんでしょ! 転校すれば好きなだけ遊べるじゃない! そういうのは私と関係ないところでやってよ!」
「ケッ!やなこった。俺は絶対に辞めないし、辞めるのはお前……お、良いこと考えた」
一哲は下卑た笑みを浮かべて加恋にプレッシャーをかける。
「俺は絶対に真面目に勉強なんかしてやらねーし、お前の邪魔をしてやる」
「なんですって!?」
「あ~あ、可哀想に。そんなに勉強して良い大学入りたいのに、こんなところにいたらぜ~んぶ台無し。AIも勉強なんかするなって言ってるのかもな」
「ふ……ふ……ふざけないでええええ!」
「だ、か、ら、それが嫌なら辞めろって。良い大学に行って自慢したいんだろ、ちやほやされたいんだろ、認められたいんだろ。そんなちっぽけな自尊心がそんなに大事なら、辞める以外の選択肢なんて無いだろ」
「私は……私はここじゃなきゃ……卑怯者おおおお!」
美しい顔を憤怒に歪ませ、今にも殴りかかりそうな様子の加恋。
一方で彼女を煽る一哲も怒りや苛立ちを湛えた冷徹な視線で迎え撃つ。
一触即発。
このままでは口だけでは済まなくなるのではないか。
緊張感が最高潮に高まったその時。
バサバサバサバサ!
「うお!」
「きゃあ!」
踊り場にある小窓が開いていて、そこから突然鳥が飛び込んで来て、二人は大きく驚き言い争いが中断された。
しかもその驚きでよろめき、階段から足を踏み外してしまう。
「きゃああああ!」
「うおおおおお!」
激しく音を立てて階段から転げ落ちる一哲と加恋。
まるで口論しすぎてバチが当たったかのような仕打ちに、顔を顰めながら全身の痛みにどうにか耐え、必死に受け身を取ろうとする。
数秒後、階下まで転がり落ちた二人は痛む体を起こそうとするのだが。
「あふはらは?」
何故か上手く口が動かせず、変な言葉が漏れてしまう。
「(なんだ、上手く口が……いや、身体が動かねぇ)」
「(視界がぼやけて……呼吸がしにくい……変な落ち方しちゃったのかな)」
そう心の中で呟きながら、どうにか冷静になって体の様子を確認しようとするのだが。
「やはふぁは?」
口から漏れたのはまたしても意味不明な一言。
脳に障害が起きてしまったのかと不安になりそうな状況だが、脳内の二人は全く違った感覚を覚えていた。
「(なんで体が自由に動かねーんだよ。俺が動かそうとすると邪魔が入る)」
「(なんで体を思うように動かせないの? 他の人に勝手に動かされてるみたい)」
他人が自分の身体を勝手に動かそうとしている。
それと自分の動きが重なってしまっているがゆえに、上手く動かせないし上手く話せない。
「(いやいやそんなまさか)」
「(きっと痛みで意識がボケてるだけよね)」
時間が経てば元に戻るだろう。
そう感じた二人は、はっきりしてきた視線の先に右腕が映っていることに気が付いた。
「(あれ、これって誰の腕? って俺の腕か)」
「(私の腕……あれ? 誰かの腕に変わった?)」
「(俺の腕かと思ったら、また誰かの腕に変わっちまった)」
「(良かった元に戻った。ってあれ、また変わった。何なのこれ?)」
右腕が自分の物と他人の物とで交互に切り替わる。
「(夢?)」
「(夢?)」
そんなことがありえるはずもなく、二人はこれが夢だと思いかけた。
「(でも夢って感じじゃないんだよな)」
「(ちゃんと痛みあるし、やっぱりこれって現実よね)」
夢にしては感覚がリアルすぎる。
体がこれは現実だと伝えて来る。
では右腕の変化は一体どういうことなのだろうか。
「(なんか服も一緒に変わってるな。女子のに……女子?)」
「(服まで一緒に変わるだなんて変なの。しかも男子のに……男子?)」
二人は同時にある突拍子もない事実に思い至る。
そんな馬鹿なと鼻で笑いたくなるような、仮にもしそうだったとしたら最悪以外の何物でもないその事実。
「(あいつと合体してるのか!?)」
「(あいつと合体してるの!?)」
一つの身体を二つの意思が動かそうとしている。
だから上手く動けないのではないだろうか。
「(俺の身体から出てけ!)」
「(私の身体から出て行って!)」
「(居た!?)」
「(居た!?)」
反射的に心の中で相手に抗議したら、その心の声がお互いに聞こえた。
口に出していないのに脳内で会話が可能などあり得ない現象だ。
「(一体どういうことだよ!)」
「(それはこっちの台詞よ!あんたが何かしたんでしょ!)」
「(何かってなんだよ! それに出来たとしても頼まれたってこんなことしねぇよ!)」
「(だったら)けほっけほっ」
脳内でヒートアップしてしまったからか、咳が出てしまった。
そのことで少しだけ冷静になった。
「(待って。今は言い争いは止めて状況を確認しない?)」
「(…………ああ、そうだな)」
「(とりあえず体を確認してみましょう)」
「(分かった)」
階段から落ちた痛みはまだ残っている。
まずは体が無事かどうかを確認するのが先決だ。
だがそれを確認しようと顔を動かそうとするのだが、顔はプルプルと気持ち悪く不規則に動くだけ。
「(ちょっと邪魔しないでよ!)」
「(それはこっちの台詞だ!)」
「(どうしてそっちに動かそうとするの!)」
「(お前こそ向きが違うだろ!)」
単に体を見ると言っても、腕を見るのか、胴体を見るのか、足を見るのか。更にその中でも細分化が可能である。その中のいずれかをお互いが見ようと顔を動かそうとするものだから、バラバラな動きになってしまうのだ。
「(もう、どうすれば良いのよ)」
「(これもしかして、意識が強い方が優先して動かせるんじゃないか?)」
「(え?)」
一哲は超集中して顔の制御をしてみる。
すると今度は邪魔が入らずに動かせたでは無いか。
「(嘘!顔が勝手に動く!)」
「(うお!なんだこれ!俺の体があいつの体になってるじゃねーか!)」
一哲が全身を確認すると、女子の制服を着た女性の体になっていた。
「(あれ、でもさっきは右腕が俺の腕になってたよな)」
「(ちょっと勝手に動かさないでよ!)」
「(うお!)」
一哲が右腕を見て考え事をしていたら、顔が勝手に動いて景色が変わってしまった。顔を制御する意識が弱まったため、制御を加恋に奪われたのだ。
「(ああ、良かった。やっと自由に動かせ……え!? なんで私の体があいつのになってるの!?)」
今度は加恋が自分の体を確認すると、その体は男子の制服を着た男性のものになっていた。
「(あいつの体になったり俺の体になったりする、だと。そんな馬鹿な。これじゃまるで)」
「(本当に合体しちゃったの!?)」
自分の体以外、周囲に体が無い。
しかも自分の体は男性のものにも女性のものにも変化する。
つまり一哲と加恋の体が合体し、表に出る姿や主導権を奪い合っているという状況だった。
「(なんなのよ!なんなのよこれ!私の体から出ていってよ!)」
「(出て行くのはお前だろ!勝手に俺の体に入りやがって!)」
「(私がそんな気持ち悪いことするわけないでしょ!女子の体に興味があるのはあんたでしょ変態!)」
「(だとしてもお前にだけは絶対に手を出すことは無いわ!) 痛っ……」
またしても脳内でヒートアップしていたら、身体の痛みがそれを中断させた。
「(ひとまず保健室に行こうぜ)」
「(そうね)」
階段から思いっきり転げ落ちたのだ。良くない怪我をしているかもしれない。
それにこの合体しているという状況も相談したい。
保健室に行きたいと願うのは自然な流れだろう。
だがしかし。
「(よし、じゃあ行くぞ)」
「(きゃ!急に動かさないでよ!)」
「(うお!なんで足がそっちの方向に!)」
「(手のつきかたそうじゃないでしょ!?)」
二人が好き勝手に一つの体を動かそうとするものだから、起き上がることすらままならない。
上手く動かすためには協力が必要なのだがこの二人がそんなことするわけもなく、身体を変化させながら床の上でジタバタ暴れる不可思議な生物が爆誕しただけであった。
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