第3話 バディの変更は認められません

「こんな奴がバディだなんてありえない!断固抗議します!」

「この学園は俺の未来を潰す気か!?」


 にこにこ。


「私は勉強して良い大学に行きたいんです! もっとお互いに高め合える人に変えてください!」

「このままじゃ灰色の青春になっちまう!頼むからもっとマシな奴に変えてくれ!」


 にこにこ。


「それに存在が不愉快で顔も見たくないから他のクラスに変えて欲しいです!」

「ああそうだ! それだけは気が合うな。どっちが移動でも良いからクラスを分けてくれ!」


 にこにこ。


 二人に詰め寄られても笑顔を崩さないのは、このクラスの担任男性教師である窓理まどり。開けているのか分からない程の細目で、スラっとした体型の背が高めの人物だ。


 この教室に入った直後から一哲達に絡まれているが、まだ一言も発していない。


「キミは女子なら誰でも良いのかと思ってたけど違うんだね」

「ああ?誰……おお、麗しの君!」

「あはは、何その呼び方」

「握手!握手!」

「はいはい、女子の手を握りたいんだね~」


 一哲に話しかけて来たのは、唯一ナンパが成功しそうだった女生徒だった。どうやらフラグが仕事をしたらしく、同じクラスになったようだ。


「新入生男子の大半を虜にした桜ヶ平さくらがひらさんが相手じゃ不満だなんて、贅沢なんだね」


 桜ヶ平さくらがひら 加恋かれん


 それが一哲の天敵の名前であり、彼女は引き続き窓理教師に抗議を続けていた。


「俺は貴方と……あ、俺は巌流島一哲だ。よろしくな」

「私は音乃葉おとのは琴遥こはる。よろしくね」

「俺は音乃葉さんとバディになりたい!」

「あ、それはお断りします」

「なんで!?」

「いやなんか孕まされそうだし」

「そんなこと……しないよ!」

「いや~やっぱり狙われてる~」


 まだ会うのが二回目であり、一哲の性格がバレているにも関わらず雰囲気は良好だ。


「会話の相性抜群じゃん! 俺のバディは音乃葉さんしかありえない!」

「それは否定したいところだけど……でもそれの方がマシかな?」

「え?」

「私も先生に抗議に来たの」

「音乃葉さんのバディってそんな変な奴なのか」

「キミに言われたくないだろうね」


 そう苦笑しながら琴遥は自分のバディへと視線を向ける。


 そこには席に座って俯いてブツブツ呟いている、いかにも暗そうな男子がいた。


支暗はぜくらしずか君。彼には悪いけど、あそこまで暗いと流石の私もしんどいなって」

「俺とバディを組んだら一生楽しませてあげるぜ!」

「やっぱり彼とキミ以外でお願いしようかな」

「酷い!」

「あはは」


 相性が良いのか、それとも揶揄われているだけなのか。

 少なくとも二人が組めばお互いに嫌な気持ちにはならないだろう。


「でも抗議しても無駄っぽいね」

「何でだ!? やってみなきゃ分からないだろ!?」

「だってほら見てよ」


 いつの間にか、窓理教師の近くに彼ら以外の生徒が詰め寄っていた。


「センセイ頼む! 彼女は! 彼女だけは止めてくれ!」

「それはこっちの台詞です。私はもっと真面目な人を希望します」

「僕は勉強以外に興味が無いので、彼女の相手は務まりません」

「こいつちょ~つまんなそ~嫌~」

「この俺の、二頭筋の良さが、分からない女など、ご免被る!」

「芸術を理解できない脳筋なんて存在価値がない」

「カナメ×ミチカの良さが分からないオタクは敵だ!」

「異端は排除せよ異端は排除せよ異端は排除せよ異端は排除せよ」


 全ての生徒が初対面であるにも関わらず、バディに不満があると訴えかけているのだ。


「こんなに沢山不満があるならやり直しの可能性があるんじゃないか!?」


 一哲はそう期待するが、琴遥は全く別の考えだった。


「でも先生全く動揺して無いよ。まるでこうなるのが分かってたみたい。やり直しなんてしてくれるのかな」


 騒がしい中で琴遥の言葉が聞こえたのか、窓理教師は彼女に視線を向けて僅かに微笑んだ。


 パァン!


 そして一度だけ大きな柏手を打つと、教室内が一旦静かになった。


「席に戻りなさーい」


 そして気の抜けた声で生徒達に指示をしたのだが。


「その前にバディを変えると約束してください!」

「せめて!せめて彼女以外で!」

「あいつと三年間も一緒だなんて耐えられない!」


 生徒達は再び騒ぎ出し、席に戻る気配を全くみせない。

 収拾がつかない事態に対し、窓理教師が取った方法は。




「黙れ。席に戻れと言っただろ」

「「「「ひっ!」」」」




 超低音ボイスで威圧をかけてきた。

 しかも僅かに目を開き、殺気を籠めた視線をぶつけてくる。


 殺される。


 反射的にそう感じた生徒達はビビリ散らかし、足をガクガクさせながらよろめくように席に戻った。


「ではホームルームをはじめます」


 窓理教師は直ぐに元の笑顔に戻ったが、どうにも胡散臭く見えてしまい生徒達の恐怖は消えてくれない。


「おっと、少しやりすぎましたかね」


 全くやりすぎだと思ってないような雰囲気でそんなことを言う窓理教師が、すぐに生徒達が最も知りたいであろうことを教えてくれた。


「実は入学式では敢えて触れていない話がありまして、君達がバディに不満を抱くのは想定通りだったのです」

「なんだって!?」


 クラス中がまだ恐れ戦く中、一哲だけが窓理教師の言葉に大げさに反応した。その様子からはもう恐怖は感じられない。


「おや、確か君は巌流島君だったね。もう復活したんですか。凄いですよ。私がこれまで担当したクラスの中で最短記録達成です」

「メンタルだけは強いので!」

「ふむ。そのようですね」


 ちなみに一哲の隣の席の加恋はまだ恐怖に縛られているが、それ以上に一哲のことが気に入らないらしく、苛立たしそうに小声でツッコミを入れていた。


「ただ鈍感なだけでしょ」


 これが一哲に聞こえていたらまた激しい口論が始まって窓理教師に静かにしろと脅されただろうが、幸運にも聞こえなかったのか、あるいは意図的に彼女の存在を意識から外しているからか、一哲は反応しなかった。


「それで先生。想定通りって言うのは?」

「皆さんは気付いていなかったようですが、今の騒ぎは他のクラスでも行われていました。毎年の恒例行事のようなものです」


 つまりバディに対する不満が必ず噴出するようになっているということだ。


「もちろん私達が恣意的にそう組み合わせた訳ではありません。AIがそう判断しています。そして、それが必ず成果につながります。たとえ今の皆さんがそう思わなくても」


 確かにそれは事実なのだろう。

 この学園の卒業生の声を聞けば明らかだ。


 だがそうだとしても納得できない。

 いくら成長できるからと言って、嫌で嫌でたまらない相手とバディなんて組みたくない。


「でも俺は嫌です!」

「堂々と言いますね。そういうの嫌いじゃないですよ」

「ならバディを変えてください!」

「それは出来ません」


 交渉の余地など無いと言わんばかりにばっさりと斬って捨てられてしまった。

 しかしその代わりに別の観点でのフォローをしてくれた。


「巌流島君は女性とお付き合いしたいのですよね」

「はい!」

「それなら存分にすると良いです」

「で、でも、俺が付き合いたいのは……」


 バディ以外の女性である。

 むしろ今のバディだけはありえない。


 そう抗議しようと思ったのだが。


「話は最後まで聞きなさい。この学園では恋愛は結構盛んなんですよ」

「え?」

「そしてその相手はバディ以外。むしろバディとお付き合いしている方が稀ですね」

「そうなんですか!?」

「そうなんです」


 だとするとピンク色の学園生活が閉ざされたわけではない。

 バディが気に入らなくてもバディ以外と学園生活を楽しむ道はあるからだ。


「もちろん恋愛以外もそうです。気に入った相手と積極的に交流をして学園生活を楽しんでください。学園側の立場としては、カリキュラムをバディとこなしてくれればそれで良いのです。もしかするとAIもその形を望んでいるのかもしれませんね。必要以上にバディと仲良くなりすぎると勉学に支障が出るかもしれませんから」


 そして気に入らない相手とバディとして行動する不満を、気に入った相手との交流で発散させる。不満が募っているからこそ、激しく感情を揺さぶる恋や青春に夢中になる生徒が増える。


 だが果たしてそんな形が本当に上手く行くのだろうか。


「先生、質問良いですか?」

「はい。桜ヶ平さん」

「先生が仰ることも分かりますが、バディとの相性が最悪だと、そもそものバディとの行動が上手く行かないのではないでしょうか」


 そして自分がそうなのだからバディを変えてくれ。

 彼女は暗にそう言っている。


 彼女も一哲と同様にバディ解消を諦めてはいなかった。


「そう思うのも尤もです。私個人の感覚でも、組ませて上手く行かない組み合わせばかりのように感じますから。ですが変更はできません」

「どうしてですか?」

「簡単な話です。それで今まで成果が出ているからです」


 どれだけ無謀な組み合わせに思えようが、三年後には全員が成長して満足して卒業している。ずっとそれが続いているから、変えられない。


 AIだからこそ、人間の感覚では到底受け入れられない正解を導き出せているのかもしれない。後はそれを信じられるかどうか。生徒達が信じられなくとも、教師は信じているので絶対に変更することは無い。


「…………」


 そう言われてしまっては加恋は反論が出来ない。

 嫌で嫌でたまらないのに、それを覆す方法が思いつかない。


 だが。


「先生!俺は嫌なので変えてください!」


 一哲は全く気にせずに自分の気持ちを主張し続けた。


「君は先ほどまでの私の話を理解していますか?」

「もちろんです!でもそんなの関係無いです!嫌だから変えてください!」


 あまりに自分勝手な我儘に加恋は一哲をきつく睨んだ。

 とはいえここで一哲を否定すると、自分が一哲とのバディを認めていることになるため慌てて視線を逸らす。


 だが苛立ちが消えてくれない。


「(こいつとバディが変われば嬉しいはずなのに、何でこんなに腹立つのよ)」


 もちろんそれは、実は一哲に好意を抱いているから、なんてことではない。

 かといって嫌いだから何もかも否定したくなっているわけでもない。


 一哲の自由な振る舞いを見る度に、苛立ちが強くなる。

 理由が分からないからこそもどかしく、更に苛立つ悪循環。


 加恋がそんなもやもやに悩まされている間にホームルームは終わってしまった。


 バディの変更は最後まで認められなかった。

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