21歳、画廊にて
☓ ☓ ☓
月島先輩と喋ったのは、画廊の中を二巡しているときだった。
私はそのとき、十枚目の絵の前で長く足を止めていた。それは、砂浜にいる金髪の青年に、茶色い髪の女性が親密にしだれかかっている絵だ。男女の表情は右から差し込む角張った青い影で、意図的に隠されて見えない。
気がつくと、機嫌よく踵を上げ下げしてる月島先輩が隣に立っていたのだ。
「この絵、私好きです」
「マジ? やった。僕もこの二人が大好きなんだ」
「高校時代からこの二人をモチーフに何枚か描いてましたよね? 同じモチーフばっかり描くなって、何度か先生から怒られてるのを廊下で見かけました」
「その記憶は早く忘れてほしいな、恥ずかしいから」
月島先輩は懐かしそうに、絵の中の男女を見ながら言った。
「君が来てくれるの、実は意外だったよ」
「私のほうこそ意外でした。チケットが家に届いたとき驚きました」
苦笑しながら、絵のタイトルを見る。
――『秘密』
その二文字は、私の中の罪悪感を刺激する。
「月島先輩」
「なに?」
「ペアコンサートの日、うちの学生が一人消えたでしょう? あれ、私が消したんです」
高校一年生の年、私はペアコンサートにでるべきではなかったんです。
ガラスの彗星を、弾く 笹森岬 @misakisasamori
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