第2話 能登の毒花
柴田勝家のカードを持つ男の猛進を、弘樹(長近の意識)は最小限の動きでいなした。モップの柄が男の膝裏を正確に叩き、その巨体をコンクリートの床に沈める。
「ぐっ……なぜだ、派遣のガキごときが……!」
「武運がなかっただけのこと」
弘樹の口から出たのは、自分でも驚くほど冷ややかな突き放すような声だった。男の手からカードが零れ落ち、霧のように消える。敗北した参加者は、資格を失うのだ。
長近の意識がスッと引いていく。弘樹は膝をつき、激しい動悸に耐えた。
「これが、カードの力……」
スマホが震える。画面には新たな文字が刻まれてい た。
【第一回戦終了。残り9名。次の聖域(サンクチュアリ)は――能登。】
11月4日。弘樹は貯金をはたき、北陸新幹線に飛び乗った。
金森長近の記憶が、彼を導く。長近はかつて織田信長に従い、越前や能登の平定に関わった。その記憶が、カードを通じて弘樹に「戦術眼」を与えていた。
能登半島の先端、荒れる日本海を望む断崖に、その女は立っていた。
喪服のような黒いドレスを着た、冷たい美貌の女だ。彼女の手には、弘樹のものと同じ黒鉄のカード。
「金森長近……。飛騨の匠が、こんな冴えない男に宿るとはね」
女がカードを掲げると、周囲の空気が重く澱んだ。
カードに刻まれた名は――『長
「長続連……能登の穴水城主、七尾城の重臣。そして、裏切りの影に消えた一族の長」
弘樹の脳内で、長近の知略が警告を鳴らす。
「私の能力は『籠城(クローズド)』。この半径100メートルから、あなたは一歩も出られない」
女が指を鳴らすと、目に見えない障壁が弘樹の退路を断った。それだけではない。足元の地面から、黒い茨のような触手が伸び、弘樹の足首を絡めとる。
「七尾城は難攻不落。飢えと病で死ぬまで、そこで枯れなさい」
長続連の能力は、精神的な「閉鎖」と、相手をじわじわと追い詰める「毒」だ。弘樹は息苦しさを感じ、膝をついた。肺が焼けるように熱い。これは比喩ではなく、カードが引き起こす超常的な攻撃だった。
「……長近、どうすればいい……」
弘樹がカードにすがると、老練な声が響いた。
『主よ、長続連は確かに堅牢。しかし、奴は内からの崩壊に脆い。奴が信じる「壁」そのものを、こちらの「美意識」で塗り替えなさい』
「美意識……?」
『長近はただの武将にあらず。茶人、そして都市計画の祖。殺風景な檻など、優雅な茶室に変えてしまえばよいのです』
弘樹は震える手で地面に触れた。カードから金色の光が溢れ出す。
それは破壊の光ではない。殺風景な断崖を、静謐な「和」の空間へと再構築する**『城下構築(タウン・プランニング)』**の力だった。
「な……!? 私の檻が、書き換えられていく……?」
女の顔が驚愕に歪む。
弘樹が立ち上がると、その背後には、荒波を背景にした黄金の茶室の幻影がそびえ立っていた。
ゲームプレイヤー一覧
1 楯
金森 長近 主人公。能力:『城下構築(タウン・プランニング)』。空間を再定義し、敵の結界を無効化する。
2 葛城
長 続連 キーワード:『能登』。能力:『籠城(クローズド)』。半径100mを封鎖し、敵を内部から衰弱させる。
3 豪田
柴田 勝家 最初に弘樹を襲った男。能力:『瓶割り突進(チャージ)』。圧倒的な破壊力で物理障壁を粉砕する。
4 九条
明智 光秀 常に冷静沈着。キーワード:『三日天下の盤面』。周囲の因果律を操作し、有利な状況を強制する。
5 不知火
インフルエンサー
出雲 阿国 能力:『傾奇演舞(ストリーミング)』。自身の動きを他人の視覚に焼き付け、幻惑・催眠を行う。
6 佐伯
警備員(元自衛官) 島津 義弘
能力:『
7 宇喜多
引きこもりの少年 宇喜多 直家
能力:『暗愚の猛毒』。SNSや電子機器を通じて、対象の精神を汚染・発狂させる広域攻撃。
8 黒崎
大谷 吉継 キーワード:『白頭の義』。視界を遮ることで、魂の結びつき(鎖)を可視化し、引き千切る。
9 藤堂
能力:『縄張(モデリング)』。現実の地形を瞬時に変造し、敵を迷路に閉じ込める。
10 「無名」(むめい) 不明 ??? 正体不明。
他の参加者のカードを奪い、その能力を吸収しているという噂がある。
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