かんじょうけしごむ
@pe-suke10
第1話
「よし!今日こそお母さんに怒られずにいい子っていわれるぞ」
お母さんが階段を登ってくる音が聞こえてきました。
「遊んだものを散らかして早く片づけなさい」とお母さんが部屋に入ってきていいました。
「まだ遊ぶんだから、そのままにしとく!」とぼくがいうと
「いいから片付けなさい」とお母さんが怒りました。
「まだ、使うんだもん」といいながら悲しくなって泣いていました。
「泣くと妹がびっくりするでしょ」
「そんなことで泣かないの」とお母さんがまた怒りました。
「もういいもん」といって、押し入れの中に入って僕が泣いていると
うえから何か落ちてきて、僕の頭にあたりました。
でも、泣きつかれていた僕は落ちてきたものをにぎったまま眠ってしまいました。
ぼくは、不思議な夢をみました。
「ぼくは、かんじょうけしごむ」
「いらないきもち、けしちゃえ!けしちゃえ!」
「ノートに泣いた顔を書いて、けしけし♪」
「ほら、びっくり!悲しい気持ちなくなった~♪」
むにゃむにゃ~
変な夢だったな…目が覚めると僕はびっくりしました。
何と手に夢にでていた“けしごむ”を持っていました。
もう泣いて怒られたくないから、泣いた顔を書いて消してみようっと
「どこにいるの?」「いい加減に片付けなさい」とお母さんが部屋に入ってきて言いました。
いつもなら怖くて悲しい気持ちになるけど
この“けしごむ”で消したら全然悲しくない!
「はーい!」と僕は返事をしました
すごいぞこの“けしごむ!”
「片づけが終わったら、おやつにするから下におりてきなさい。」
「あなたの好きなドーナッツよ!」とお母さんが言いました。
「やったー!」
「僕、ドーナッツだーーーい好き!」
「やったーやったー」と喜んでいると…
「うるさいわねー!さっさと片付けなさい」とまたお母さんが怒りました。
「あ…喜んでも、お母さんを怒らせちゃうのか」と僕はびっくりしました。
「そうだ、喜んだ顔もさっきの“けしごむ”で消しちゃえ」
「これで、お母さんを怒らせることはないぞ!」
片づけが終わって下におりると…
妹が僕のドーナッツを食べていました。
「なんで僕のドーナッツ食べてるの!」と僕が怒ると
「うえーん」と妹が泣き出してしまいました。
「何しているの!かわいそうでしょう。」
「お兄ちゃんなんだからそのくらいで怒らないの」とお母さんがなぜか僕を怒りました。
「僕が怒らなければいいのか、またあの“けしごむ”で怒った顔も消しちゃえ」
「何してるの!食べるところで絵をかいたり“けしごむ”で消したりして」とまたお母さんが怒りました。
怒る顔も、悲しい顔も、喜んだ顔も消した僕は怒られたって平気です。
「へへへ」とにこにこしています。
「なんなのお母さんが怒ってるのに笑って、ずっとにこにこ笑ってて気持ち悪い!」とお母さんが怒りました。
「笑っててもだめなのか…笑った顔も書いて消しちゃえ」
「お母さん、僕もう笑ってないよ、泣いてもないし、いい子だよね」
「なんなのロボットみたいで、気持ち悪い!」「子どもなんだから、もう少し泣いたり笑ったりしたらいいのに」とお母さんが僕に言って部屋から出ていきました。
ただ僕は、お母さんに怒られず”いい子”だねって言われたかっただけなのに…
そう思っても涙もなにもでてきません。
感情がないと、なんだか体の中に大きな穴が開いたみたいで、とても苦しい。
お母さんは、さっき僕に「泣いたり笑ったりしたらいいのに」といった。
それは、僕が感情を取り戻してもいい、感情がある子どもでいいということかもしれない。
僕は、消しゴムで消した感情を、もう一度取り戻したいと思った。
そのためにはどうしたらいいのだろうか…顔を書いて消した時に出たケシカスを集めたら感情がもどってくるかもしれないと思い、机の上にあった“けしかす”、ゴミ箱に合った“けしかす”を集めてなくさないようにズボンのポケットにいれた。
「全部集めることができたぞ!」と嬉しいのに笑うこともできません。一度消してしまった感情は戻ることができないのかと大きな声で泣きたいの涙もでません。
「もういいや!感情がなくて生きていくしかない」「でも…もう一度泣いたり笑ったりしたいなー」
最後の望みをかけて“かんじょうけしごむ”に会えた押し入れの中に入ってもう一度眠ってみることにした。夢の中で、“かんじょうけしごむ”が言った。
「感情は、簡単に消してはいけない。」
「感情は、君の大切なものなんだ。」
「笑ったり、泣いたり、怒ったりすることも、君を成長させてくれるものなんだ。」
「感情と向き合い、感情を大切にすることで、君はもっと素敵な人になれるよ。」
僕は、目を覚ました。
手には、すりへってない“けしごむ”が握られていて、ポケットに入れてたはずの“けしかす”はなくなっていた。
僕は、消しゴムをそっと机の上に置いた。
そして、お母さんのもとへ向かった。
「お母さん、ごめんなさい」
僕は、正直な気持ちを伝えた。
「さっきは、ドーナッツを食べられて悲しかった。でも、妹も食べたかったんだよね。僕が悪かったよ。」
お母さんは、僕の言葉に驚いたようだった。
そして、優しく僕を抱きしめてくれた。
「ありがとう」「いつもお兄ちゃんだからといって我慢させることが多くてごめんね」
お母さんの温かいぬくもりが、とても嬉しくて僕は大きな声で泣いた。
僕は、感情を取り戻した。
感情は、僕を苦しめるものではなかった。
感情は、僕を成長させてくれるものだった。
僕は、感情と向き合い、感情を大切に生きていこうと思った。
かんじょうけしごむ @pe-suke10
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