第2話 裏切り

「えっと……?」


 メニュー画面を表示する。

 カレンダーを確認する。

 今日は持久走の日の、さらに翌日だ。


 なんで俺、ログインしているんだ。

 今は昼、普通なら学校にいるはずなのに。


 ていうか昨日、なにしてたっけ。

 まったく思い出せない。

 持久走をしたなら、覚えているはずなんだけど。


 最後の記憶は……海堂たちとダンジョンに行って、ドラゴンを倒したな。

 入手したアイテムを友達のリュウイに渡した。

 でもそこから先は……思い出せない。


「ログアウトしよう」


 メニュー画面を操作してログアウトを……。


「できない?」


 ログアウトを選択しても反応しない。

 どうなってる。

 ならVRギアを外せば……あれ、ない。

 VRギアがない。被っている感覚もしない。


 現実の肉体が動いている気配もない。


 とにかく、外部と連絡しなくちゃ。


 CBFはSNSと連携しておけば、ゲーム内からDMを送れる。

 これで海堂たちとコンタクトを取る。


【恒志!? お前病院からメッセージ送ってんの?】


 は? なに言ってんだこいつ。


【昨日、先生から連絡があったんだよ。一昨日、お前が跳ねられて、入院しているって】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「マジか……本当にコヲシじゃねえか。なんでCBFにいるんだ?」


 放課後、学校を終えた海堂がさっそくログインしてくれた。


「それよりどういうことなんだよ。俺が跳ねられたって。俺はここにいるぞ」


「わかんねぇよ俺だって。ほら、このリンク見れるか?」


 送られてきたメッセージから、外部のサイトにアクセスする。

 確かに、ニュースになっている。

 俺と母さんが車に轢かれたこと。

 意識不明だってこと。


 母さんは、即死だったということ。


「……母さんが、死んだ?」


 意味がわからない。

 事故った記憶なんかないぞ。

 知らないうちに母さんが死んだってのか。

 これは、夢?


「…………」


「おいコヲシ、なにしてんだ。画面いじって」


「篠宮しよりにDM送ってる。親はSNSやってないから、ゲーム内から連絡が取れない。でもあいつは俺の母さんと親しいから……」


 篠宮しよりは俺の幼馴染だ。

 ゲームには興味ないタイプだから、CBFはやっていない。


「なぁ、コヲシ」


「なんだ?」


「えっと、お前は気づいたらゲームの中にいて、ログアウトできない。でも現実では入院しているってことで、いいんだよな?」


「オカルトみたいな話だけど、そういうことになる」


「いますぐ俺が……いやスグル(魔法使い)をお前ん家に行かせるよ。ほら、パソコンから操作したほうが、いろいろわかるだろ? 家に誰かいるかわからんけどさ」


「そうだな、助かる。パスワードはkoushi0520だから。あと、余計なブックマークは覗くなよ」


「パスワードならとっくに知ってるよ。お前、いろんなパスワード全部同じにしているタイプだろ。……てかコヲシ、やけに冷静じゃん」


「混乱が一周回ってきた。逆に……」


 逆に海堂は、どこか挙動不審だ。

 俺と目を合わせない。そわそわしている。

 こんな異常事態なんだ、しょうがないか。


「な、なあ、もう篠宮には送ったのか?」


「え? 触りだけな。まだ詳しくは」


「もう少し時間をおいてからの方がいいんじゃないか? なんにもわからない状態なんだし、余計に混乱させるだけじゃねえの?」


「でも……」


「ひとまず今は、じっとしておいた方がいい気がするぜ。急がば回れってやつさ。今は落ち着くことを優先するんだ」


「…………」


「大丈夫、俺に任せろ。なんとかしてやる。友達だろ? 俺らは」


「そう……だな……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 篠宮しよりとのDMは、確かにそう続かなかった。

 向こうはSNSすらほとんど開かない今どき珍しい性格。イタズラなんじゃないかと疑われたし、こっちも理屈がわからない現象を説明する知恵も余裕もなかった。


 でも一応、俺がこの世界にいることは伝わったみたいだが。

 向こうも親しい人間が事故ってパニックになっているんだ。


 そしてーー。



「コヲシくん!!」


「リュウイ(銃士)」


「ほ、本物だ〜!! な、なんで〜?」


 一時間後、銃士のリュウイも会いに来てくれた。

 もう一人の友達はいま、俺の家に向かっているはず。


 リュウイと海堂がこそこそ何か喋っている。

 心配そうに俺をチラチラ見て、なにやってんだ?


「お、恒志。スグルからDMだ。家に入ったみたいだぞ。お父さんがいたらしい」


「そうか。でどうなんだよ海堂。俺は外に出られそうか?」


「焦るな焦るな。いまスグルがお前のパソコンを起動するはずだ。親が家にいてよかったな。昨日はいなかったから。……お父さんにはあいつから説明があると思う」


「そっか」


 父親には。

 母さんじゃないのか。

 ならやはり、母さんはもう……。


 違う。そう結論づけるな。

 ガセのニュースかもしれないし、一命を取り留めた可能性だってある。


 この目で確かめるまでは、信じるな。


 とにかく、きっとあいつから俺の今の状況が父さんに伝わるに違いない。

 そのあとは、そのあとは父さんと話して決めよう。


「ん? ちょっと待て、いま『昨日は』って言った?」


「は? 言ってねえよ。聞き間違いだろ」


「そ、そうか。すまん、動揺しすぎておかしくなってる。早くログアウトしたい。現実に帰りたい。もうなにもかもめちゃくちゃだ」


「またDMが届いたぞ…………そっか、パソコンを起動したか」


 VRギアやコネクトグローブがなくても、ゲームを起動することはできる。

 モニターの画面を見ながらマウスやキーボードで操作する前時代的なプレイになるが。


 いま俺の部屋にいる友だちがキャラクターを操作したら、俺の体は勝手に動くのだろうか。

 試してほしくはないが。





「ふぅ、じゃあ、もういいか。コヲシ」


「ん?」


「驚いたぜ恒志よ。マジでビビった。まさか、亡霊になってゲームを彷徨うなんてな。大人しく植物状態でいればよかったのに」


 海堂の目付きが変わった。

 暗く、不気味な眼差しへと。


「え?」


「たぶんスグルはお前の親に、どうしても回収しなくちゃいけないファイルがある、とか適当な理由をつけて部屋に上がっているだろうぜ」


「お、俺がここにいるって話すんじゃないのかよ」


「くくっ、話すわけねぇだろ」


 じゃあ、なにしに俺の部屋にいるんだよ。

 回収したいファイルなんてないだろ。



「お前を跳ねた車な、俺の中学時代の先輩のもんだ。盗んだ車だから、足はつかねえぜ」



「……は?」


「察しの悪いやつだな。目障りだったんだよ。お前がな!!」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

基本操作はVRギアによる脳波コントロールです。

コネクトグローブは主にメニュー画面の表示や操作で使います。

指を動かして選択する感じです。


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