第二部 第1話 町のざわめき
森を抜けた瞬間、空気が変わった。音が多い。人の声、足音、金属が触れ合う音。どれも森よりはるかに賑やかなはずなのに、ゆうの胸は落ち着かなかった。
「……森より静かじゃない。ざわざわしてる」
思わず漏れた言葉に、リシェルが小さく首を傾げる。
「人が多いから、じゃないの?」
「それもあるけど……なんか、息が浅い感じがする」
町は活気がある。店の看板は色鮮やかで、通りには行商人の声もある。それなのに、人々の表情はどこか硬い。笑顔があっても、目の奥に疲れが滲んでいる。
もふが、ゆうの肩で落ち着かない様子で身じろぎした。言葉にならない違和感が、短い感覚として伝わってくる。
――重い。息づらい。
「……まずは宿を探そう」
そう言いながら歩いていると、香ばしい匂いに足が止まった。
「……食堂だ」
木の看板に描かれたスープの絵。その下で、恰幅のいい中年の男が腕を組んで立っている。
「いらっしゃい。旅人かい?」
「はい。少し、食事を……」
そう言うと、男はほっとしたように笑った。
「助かるよ。最近、食べに来る人も減っててね」
料理を待つ間、男――マルテはぽつぽつと話し始めた。
「病人が増えてな。治療所は忙しいが、治っても元気が戻らないやつが多い」
その言葉は、町の空気と妙に噛み合っていた。
食後、礼を言って店を出た直後、通りの先が騒がしくなる。
「道を空けてくれ!治療所だ!」
担架に乗せられた少年の顔は、青白かった。
ゆうは自然と足を向けていた。
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