第一部 閑話 観測記録 予測外要素の発生

 観測対象:調律者候補・ユウ。


 境界領域通過時、同行個体もふ族・幼体の反応に変化を確認。


 本来、魔力循環の乱れが一定値を超えた領域では、もふ族は恐怖または逃避行動を優先する。


 しかし当該個体は――

 恐怖を示しつつも、対象から離れなかった。



 これは想定外である。


 調律による影響は、通常「魔力」に限定される。

 感情・判断・選択にまで及ぶ事例は、記録に存在しない。


 にもかかわらず、もふ族は “理解”ではなく“信頼”によって行動を選択した。


 原因は明白


 調律者候補が行っているのは、修復でも浄化でもない。


 ――摂取

 ――共有

 ――満たす、という行為。



 世界は長く、効率と制御を優先してきた。


 だが彼は、傷んだものを排除せず、歪んだものを裁かず、ただ「食べさせる」という選択を取る。


 その結果、最も影響を受けたのは――

 世界ではなく、観測対象周囲の“意志”であった。



 評価を更新する。


 調律者候補・ユウは、単独の修正因子ではない。


 周囲の存在を巻き込み、選択の方向性そのものを変化させる、連鎖型変数である。


 ――危険度:未確定

 ――価値:上昇


 引き続き、直接干渉は行わない。


 ただし


 この先、彼が“食卓”を誰と囲むかによって、世界の行方は大きく分岐するだろう。


 観測は、継続される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る