第一部 第9.5話 もふの感じた、こわさとひかり
もふは、境界の森がきらいだった。
木は立っているのに、眠っているみたいで。
風は吹いているのに、どこにも行けなくて。
胸の中の結晶が、ちくり、と痛む。
「きゅ……」
こわい。でも、それだけじゃない。
この先に、同じにおいがある。かなしいにおい。くるしいのに、声を出せないにおい。
――タスケテ。
もふは、そう聞いた気がした。
◆
でも。
ゆうの背中が、前にあった。
包丁の音
おなべの音
あたたかいにおい
それがすると、胸の結晶は、ちゃんと光る。
「きゅい」
だいじょうぶ
もふは知っている。この人は、こわいものを叩かない。なくなれって、追い払わない。
ちゃんと、食べさせる。
◆
境界の向こうは、まだ暗い。
でも、ひかりは、もう来ている。
もふは、ゆうの肩で、小さく鳴いた。
「きゅ」
――いっしょに、いこう
おなかがすいている世界のところまで
もふの結晶は、こわさと、やさしさを両方抱いたまま、それでも、静かに光っていた。
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