第一部 第9.5話 もふの感じた、こわさとひかり

 もふは、境界の森がきらいだった。


 木は立っているのに、眠っているみたいで。

 風は吹いているのに、どこにも行けなくて。

 胸の中の結晶が、ちくり、と痛む。


「きゅ……」


 こわい。でも、それだけじゃない。


 この先に、同じにおいがある。かなしいにおい。くるしいのに、声を出せないにおい。


 ――タスケテ。


 もふは、そう聞いた気がした。



 でも。


 ゆうの背中が、前にあった。


 包丁の音

 おなべの音

 あたたかいにおい


 それがすると、胸の結晶は、ちゃんと光る。


「きゅい」


 だいじょうぶ


 もふは知っている。この人は、こわいものを叩かない。なくなれって、追い払わない。


 ちゃんと、食べさせる。



 境界の向こうは、まだ暗い。


 でも、ひかりは、もう来ている。


 もふは、ゆうの肩で、小さく鳴いた。


「きゅ」


 ――いっしょに、いこう


 おなかがすいている世界のところまで


 もふの結晶は、こわさと、やさしさを両方抱いたまま、それでも、静かに光っていた。

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