第一部 閑話 観測者の記録

――予定外。


 彼は、導かれているのではない。

 自分で、歩いている。


 与えられた力を誇示せず、敵を定義せず、ただ“満たす”ことを選び続けている。


「……優しすぎる」


 観測者は、静かに呟いた。


 だが同時に、それ以外の結末を想像できなかった。


 影は、悪ではない。

 歪みは、意思を持たない。


 それでも――

 誰かが戻さなければ、世界は静かに壊れていく。


 彼は、その役を拒まない。


 それが、最も危うく、最も希望に近い選択だと知りながら。

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