第一部 第2.5話:焚き火と、信じるということ

  焚き火の音が、ぱちぱちと静かに鳴っている。


 リシェルは、両手で器を包み込みながら、ゆうを盗み見た。


「ねえ」


「ん?」


「さっきの、本当に魔物だったよね」


「そうだな」


「……殺さなくて、よかったの?」


 ゆうは少し考え、頷いた。


「腹が減ってただけなら。まずは、食わせる」


 簡単すぎる答えだった。


 でも、妙に胸に残る。


「……あんたさ」


「うん」


「信じてるでしょ。料理のこと」


 ゆうは焚き火を見つめたまま、静かに答えた。


「信じてるよ。腹が満たされれば、少しは優しくなれる」


 リシェルは、器の中身を飲み干した。


 理由は分からない。

 でも――この人の作るものは、信じてみてもいい。


 焚き火の温度が、その考えを、そっと肯定してくれている気がした。

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