第一部 第2話 弓使いの少女と、信じる味
森を抜ける途中、風を切る音がした。
次の瞬間、ゆうの足元すれすれを矢が掠め、木の幹に深く突き刺さる。
「動かないで!」
張りのある声、続けて、獣の唸り声が響いた。
姿を現したのは、魔力に歪んだ狼型の魔物だった。
身体の一部が黒く濁り、呼吸も荒い。
その前に立っていたのが、弓を構えた少女――リシェルだった。
「離れて!」
「待って」
思わず、ゆうは声を上げた。
「……は?」
矢を番えたまま、リシェルが振り返る。
「戦えない。でも……あれ、腹が減ってる」
少女は一瞬、何を言われたのか分からないという顔をした。
「魔物だよ!?」
「うん。でも、空腹の匂いがする」
ゆうは鍋を取り出し、火を起こした。
◆
数分後。
森に漂う香りに、魔物の動きが鈍る。
荒れていた魔力が、少しずつ落ち着いていく。
完成したスープを地面に置くと、魔物は警戒しながらも口を付けた。
――そして、静かに倒れ伏す。
死ではなかった。
眠りだ。
「……なに、これ」
リシェルは弓を下ろし、呆然と呟いた。
「料理」
「いや、そうじゃなくて……」
ゆうは苦笑する。
「俺も、よく分かってない」
◆
焚き火の前。
「私、リシェル。あんた、何者?」
「ゆう。料理人」
少女は一瞬黙り込み、やがて笑った。
「……変だけど、でも、嫌いじゃない」
その夜、リシェルは決めた。
この料理人を、もう少し見てみようと。
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