第8話 怪しい人物の噂

「私を探し回っている?」



 シルヴェルトは怪訝な表情をした。



「珍しいのか?」


「そうですね。街の人ならともかく、『怪しい人間』が私を探しているのは初めてです」



 確かにこの綺麗で平和な田舎街に『怪しい人間』は似つかわしくない。


 そんな人間がシルヴェルトを探しているとなると結構問題かもしれない。



「あ! 師匠! その人は」


「ええ、前々から調整していたホムンクルスです」


「29号ですね!」



 どうやらこのロゼッタという子は俺のことを知っているらしい。


 というか、さっきからシルヴェルトを師匠呼ばわりしているし、この子は。



「29号、この子はロゼッタ。この街の魔法使い見習いの子です」


「そしてシルヴェルト師匠の弟子です!」


「それを了解したことはありません。私は弟子を取るにはまだまだ未熟なのです」


「いえ! 師匠は師匠です!」


「こんな感じの子です」



 なるほど、どうやら複雑な事情があるらしかった。


 しかし、この子は魔法使いなのか。


 やはりファンタジーな世界には色んな職業の人が居るんだな。



「すごい! 最初はフラスコの中の小さな粒だったのに!」


「人体錬成はあんまりそんな風に目を輝かせるものではありませんよ。人間が女神の領分に踏み込む錬金術ですからね。人によっては禁忌と呼びますから」


「す、すみません師匠!」



 ぺこりと頭を下げるロゼッタ。



「とにかく、よろしくお願いしますね、29号」


「ああ、よろしく」



 ロゼッタが握手を求めてきたのでそれに応じた。



「暖かい」


「それはもちろん。色々組み替えてありますが基本的には人体ですからね」


「大きくて頼りになりそうです!」


「ええ、これから色々手伝ってもらいます」



 どうやらロゼッタは弟子を自称するだけあってシルヴェルトの工房に頻繁に出入りしているようだ。


 俺の体が出来上がって行くところも一緒に見届けたのだろう。


 まぁ、よく考えたらこんな大柄な成人男性の体ひとつを一から作っているのだからすごい話だ。


 興味がないかというと嘘になる。


 まぁ、いずれ聞けば良いことだろう。



「ところでロゼッタ。その怪しい人間というのはどんな人間だったんです?」


「白いローブでフードを目深にかぶってて、どんな人かは分からないんです。でも、身なりを隠してるっていうのがまず怪しいじゃないですか」


「そうですね。何か後ろめたいことでもあるんでしょうか」


「それで色んな人に師匠のことを聞いて回ってるんです。どこに住んでるんだとか、どんなことをしてるんだとか」


「なるほど」


「盗賊かなにかでしょうか。師匠はなんでも作れるから、連れてってお金を稼ごうと...」


「うーん、少し回りくどいですね。ですが、似たようなものでしょう。その人物が考えていることは」



 シルヴェルトはどうやらその人物に心当たりがあるようだった。



「誰だか分かるのか」


「さぁ、どうでしょう。いくらか見当はつきますが。ロゼッタ、その人はどこに居るんですか?」


「最初は商船と一緒に港からやってきて、今は街の中にいると思います。最後はは市場の方に居ました」


「もしかして見張ってたんですか?」


「はい! 師匠の一大事ですから!」



 ふんす、と鼻息を荒くするロゼッタ。


 相当シルヴェルトのことを慕っているらしい。


 勝手にそんなことまでしているとは。



「待っていても仕方ないですし、こちらから出向きましょうか。多分、こっちから行けば寄ってくる類の人物でしょうし」


「仕掛けますか、師匠」


「仕掛けるというほどのものでは。とにかく行ってみましょうか」


「また店を開けるのか」


「そうですね。1日にこんなに何回も開ける日も珍しいです。面倒な日ですね」



 シルヴェルトはため息を吐く。


 どうやらややご機嫌斜めらしい。


 その、シルヴェルトを探しているという人物はそんなにうんざりする人間なのか。



「大丈夫です! 店番は私がやりますよ師匠」


「おや、大丈夫ですかロゼッタ」


「道案内はこの子にさせます」



 そう言ってロゼッタが取り出したのは小さな鳥の模型だった。


 パタパタと動き、やがて飛び立つ。


 羽ばたきながら俺たちの周りを旋回した。



「錬金術の代物じゃないですか。ロゼッタ、いつの間にかこんなものも作れるようになったんですか」


「はい! 師匠の見よう見真似ですけど」


「これは追い抜かれるのも時間の問題ですね」


「いやいや、師匠には遠く及ばないですよ。でも、実力がついたらこんな田舎街飛び出して、王都で働くのが夢です!」


「そうですか。頑張ることです」


「はい!」



 そして、俺たちは店を後にする。



「では、よろしくお願いします。ロゼッタ」


「はい! 行ってらっしゃい。師匠、29号」



 店を出ると鳥の使い魔はパタパタ羽を動かして俺たちの道案内を始めた。


 俺たちはそれに従って歩く。



「王都も良いことばかりではないんですけどね」



 シルヴェルトはポツリと呟いた。

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蒼の錬金術師とホムンクルス-美少女錬金術師のホムンクルスに転生して工房を切り盛りする- @kamome008

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