第7話 ランチタイム
そして、工房に戻ってきた。時間にして2時間かかっていないくらいだろうか。
シルヴェルトの懐中時計を見たらそれくらいだった。時計の見方はこの世界も同じだった。
「人が居るな」
「どうやら待たせてしまったみたいですね」
街の住人らしき人や、武器をたずさえた人など4人が店の入り口の前で待っていた。
「お待たせしました」
「まぁ、いつもの事だよ」
シルヴェルトが言うと4人は別に不満を言うでもなく、笑顔で迎えた。
どうやらこういうことは頻繁にあって客側もなんとも思っていないらしい。
のんびりした店である。
「ミスリルをもらいたいのだが」
「私は鼻風邪に聞く薬草が欲しいね」
「分かりましたよ。店に入って下さい」
4人と共に俺たちは工房の中に戻った。
俺はカウンターに入る。
「新しいアルバイトかな?」
「ホムンクルスです」
もう今日何度目か分からない会話をシルヴェルトは交わしている。
お客さんたちはそれぞれ欲しい商品を手にカウンターにやってくる。
俺は次々に会計をこなす。
やがて、店内の客ははけていった。
「ふむ、そろそろお昼にしましょうか」
そして、シルヴェルトは言った。
店の裏にあるテーブルでしばらく待つとシルヴェルトはスープとパスタ的なものを並べた。なんだかいい匂いがする。スープには色とりどりの野菜が入り、パスタはどうもミートソースみたいなものがかかっている。
「そもそも、俺は食事は必要なのか?」
「ええ、必要ですねあなたは。そういう調整にしましたので」
「なんでまた」
エネルギーインゴットでも摂取すればそれで済むなら安くつきそうなものだが。錬金術なら一瞬だろうし。
「ふむ、少し難しい質問ですが、強いて言うなら食事を共にする相手が欲しかったからですかね」
少し考えてシルヴェルトは答えた。
なるほど、俺は一人暮らしに必要なちょうど良い話し相手だったのか。
「うんうん、今日もいい出来です」
そして、シルヴェルトは自分で作ったパスタをもぐもぐしながら言った。
「あなたも食べてみてください。感想が聞きたい」
「了解」
俺はフォークをパスタに突き刺してグルグル混ぜ合わせる。
それから口に運んだ。
「うまいな」
前世で食ってたレトルトとは違う。本場の味というやつだろうか。味わいがしっかりしている。
「それは良かった。やはり、人に感想を貰えるのは良いですね」
「いつも一人だったのか?」
「いつもというわけではありませんが、基本は一人ですね」
「それにしちゃ料理が上手いな」
「まぁ、料理は少し錬金術に似ていますからね」
俺はパスタとスープをがつがつ食べる。
良く考えたらこの体は今日目覚めたところなのだから生まれて初めての食事だ。
通りでうまいわけである。
俺はもぐもぐ食べながらふと景色に目を向ける。
岬があって、空があって、海が見える。
潮風が髪を揺らして、日差しは暖かく俺の肌を照らしていた。
「良いところだな」
「でしょう。私が居を構えたくなるのもうなずけるというものでしょう」
「ずっとここに住むつもりなのか?」
「さぁ、どうでしょう。ですが、今はどこかに移り住む気はありませんね」
「そうか」
シルヴェルトはこんな景色の良い場所で錬金術師として穏やかに過ごしているのか。
それは良い。実に良い。あくせく働く社畜サラリーマンからしたら夢みたいな生活だ。
「こんな生活がずっと続けば良いな」
あんまり心地よかったので俺はつい口にしてしまった。
「なんですかそれ。なんだか不穏ですよ。まるで今から崩れる前触れのような」
「何、大丈夫だろう。多分」
俺は無責任に言う。
と、その時だった。
「ん? なんか声がしないか?」
「え? あ、本当だ」
店の方から声がした。
客だろうか。俺は裏口のドアを開ける。
「師匠!!! ししょーう!!!!」
誰かが、店の中で叫んでいる。
「師匠?」
「ああ、ロゼッタですか。やれやれ」
そう言いながらシルヴェルトは店の中に入っていく。
良く分からないが俺も続いた。
「次から次へと賑やかなことだな」
「店が賑やかなのは良いことです」
そうして、俺たちは店先に戻った。
そこにはシルヴェルトよりやや若い少女が居た。
赤い髪の見るからに元気いっぱいと言った感じの少女だった。
「ロゼッタ、どうしたんですか」
「大変です師匠!! 師匠を探してる怪しい奴が街に居たんです!!!」
元気印の少女、ロゼッタは言った。
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