第5話 街での仕事
「やぁ、シルヴィ。良い陽気だね」
「ええ、タンパさん。潮風が心地いいです」
「またなにかあったら頼むよ」
「はい、ぜひ」
通りで花壇の花に水をやっていたおじさんとシルヴェルトは軽快に会話をしていた。
あのおじさんだけではない。街を歩くとシルヴェルトはたびたび声をかけられていた。
どうやら、街の人との関係は良好らしい。
「色んな人と仲が良いんだな」
「工房を経営するには人付き合いも大事ですからね。まぁ、営業活動のようなものです」
「そうなのか」
とはいえ、結構普通に楽しそうに会話していたようだったが。
それに老人と言うのは相手が仕事だと分かっていても会話したがるものだし。シルヴェルトと話す人はみな朗らかだった。
見ている方も悪い気分ではなかった。
「ところで彼は誰だ? 新しいアルバイトか?」
と、そこで一緒に歩いていたエレナが聞いてきた。
「ああ、紹介が遅れました。彼は29号。私が作ったホムンクルスです」
「ホムンクルス? 錬金術の最上位の産物と言われるあの? 初めて見た。やはり君はすごいんだなシルヴィ」
「いえいえ、王都の機構では当たり前の存在でしたから」
「ほぉお。じゃあ、君は生まれたてか」
「まぁ、そういうことになる」
「どうにも不思議な感じだな。人造生命か。話がすごすぎてどう受け止めれば良いのか良く分からん」
「まぁ、差し当たっては便利な人手だと思ってもらえれば。彼は錬金術も使えますし、戦闘もかなりいけますよ」
確かに。手が刃物に変形するのはそういう用途だったのか。
一体シルヴェルトは俺を何をするためのホムンクルスと想定して作ったのだろうか。
「戦闘もいけるのか、そうかそうか。なら、度々お世話になるかもな、ええと」
「29号だ」
「番号呼びかぁ。なにか、味気ないな」
「構わない。ホムンクルスなんてそんなもんだ」
実験生物なわけだし。識別ナンバーがあるだけましだろう。
「そうかぁ、良く分からんが。ならよろしく頼むぞ、29号」
「了解だ」
戦闘なんかしたことないけど。昨日まで別の世界のサラリーマンだったけど。
「それで、今回は何をすればいいんです?」
「ああ、もうそろそろ見えて来る」
エレナが言うと通りの先、街と草原の境の辺りに人だかりが出来ていた。
「冒険者と野次馬が入り乱れてますね」
「朝より増えてるな。おーい、シルヴィを連れて来たぞ。開けてくれ」
エレナが呼びかけると人だかりが割れていく。
その奥にあったのは。
「これはこれは、オバケヅタがこんなに」
「別にすぐにどうなるわけでもないんだが。あんまり良くないだろう」
通りの奥は巨大な葉っぱのツタが縦横無尽に埋め尽くしていた。
人間の顔よりでかい葉っぱのツタが俺の背丈よりも高く茂りに茂っている。
壁もツタが張り巡っていてひどい有様だった。
「これはいつから?」
「昨日オバケヅタが伸びてきてるという報告があって、今朝見に来たらこの状態だった」
「ほほぅ。それはオバケヅタにしてもあまりに成長が早いですね」
「放っておいたらまずいかな?」
「ええ、一週間で広場までツタまみれになるでしょう」
「それは大変だ。頼めるか?」
「仕方ありませんね。どうやら、私の仕事の範疇のようなので」
そして、シルヴェルトは俺に目を向けた。
「仕事です、29号。あなたの能力を使う時です」
「俺の?」
「あなたには魔力を探知する能力が備わっています。それを使って魔力の源を探ってもらいます」
「魔力の源をか」
「オバケヅタは魔力を帯びた植物で普通の植物とは比べ物にならないほど早く大きく育ちます。しかし、さすがにこれは早すぎる。魔力を帯びた植物は同時に魔力の影響も受けやすい。どこかにオバケヅタをここまで成長させるような魔力の源があるはずです」
「それを取り除けば良いってことか」
「そういうことです」
俺は一歩前に出てしゃがみこむ。
そして、馬鹿でかい葉っぱに手を当てた。
そして、意識を集中する。やり方は体に刻まれている。ホムンクルスとしての機能にシルヴェルトが書き加えている。
段々見えてきた。オバケヅタが纏う魔力が目に見えるようになってきたのだ。
「なるほど、魔力が見える」
「そうです。その魔力が最も濃いところを探してください」
言われるままに俺は目を凝らす。
あまりに繁茂したオバケヅタはその魔力の濃淡を探るのもなかなか難しい。
しかし、やがて見つけることが出来た。
「あそこだ」
俺はその場所を指さす。
「かなり奥ですねぇ」
密集するオバケヅタの奥の奥の方だった。
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