第4話 次々来るお客さん

「あら、今日は新入りさんなの?」



 さっそくやってきた一人目のお客様はおばあさんだった。


 別に特別な雰囲気はない、普通のおばあさんと言った感じだ。



「メリルさん、おはようございます」


「おはよう、シルヴィちゃん。結構なハンサムねぇ、彼」


「そうでしょうか。顔を良くしたつもりはありませんでしたたが。彼は私が作ったホムンクルスです。今日からこの店で働きます」


「あらまぁ、錬金術で作ったってこと? また、人間を作るだなんてすごいことするのね」


「人手が欲しかったですからね」


「うちにも来て欲しいくらいね。さて、今日も膝の薬が欲しいんだけど」


「分かりました。29号、仕事です。軟膏を取ってくるように」


「了解」



 なるほど、薬屋みたいなこともしているのか。


 俺は後ろの工房に下がって、棚の引き出しを見る。ある程度の知識はもう頭に入れられているのですぐに目当ての引き出しは見つかった。


 軟膏の入った小さな壺を取り出し、俺は再び店先に戻る。



「こちらでよろしいですか?」


「ええ、そうよ。いつものやつね。ありがとう」


「400ゼスタになります」


「はい、ありがとう」



 俺は硬貨を受け取り商品を袋で包んでご婦人に渡した。



「頑張ってね。ホムンクルスっていうのがどういう風に生きてくのか良く分からないけど」


「そうですね。そんなにひどい扱いをするつもりはありませんが」


「優しくしてあげなさいよ、シルヴィちゃん。大切な店員さんなんだから」


「分かっています」



 そういえば、何も疑問に思わず店先に出たが、これからどういう扱いを受けるのかまるで想像していなかった。


 所詮、錬金術で作られた召使なので奴隷みたいに扱われても仕方ないのだった。


 急に震えてきた。



「そういえば、感謝祭の話はどうなったの?」


「ああ、そうです。そっちに手を回したいから彼を作ったという部分もあるんですよ」


「去年は動く像だったわね。今年は何になるのかしら」


「それは感謝祭の日までのお楽しみですよ」


「うふふ、期待してるわよ。それじゃあね。また何かあったら来るわ」


「ありがとうございました、メリルさん」


「ありがとうございました」



 そして、ご婦人は軟膏を小脇に抱えて店を出ていった。



「まずは一人目のお客様でしたね。上出来ですよ29号」


「まぁ、ありがとう」



 薬をひとつ売っただけだからいきなり褒められるほどのこととは思えなかったが、素直に言葉は受け取っておく。


 シルヴィからしたら自分の作ったホムンクルスがしっかり動いて嬉しいのかもしれない。



「感謝祭ってなんの話だ?」



 そして、疑問に思ったことを口にする。



「あ、あー...そうですね。その話は大事ですね」


「去年は動く像を作ったとか言ってたけど、なにかのお祭り的な話なのか?」


「そ、そうですね。お祭りで出し物をするんです。一応、私もこの街の商会ギルドに入っていますから。出し物をしなくてはならないんですよね」


「なるほど」



 商店街の商工会的な組合なんだろうか。そこに入っているとお祭りの出し物に参加しなくてはならないということか。



「俺を作ったのはその手伝いが必要だからなのか」


「そ、そうですねぇ。そういった意味合いもあります」


「?」



 さっきからシルヴェルトの言葉はなんだか歯切れが悪い。



「感謝祭っていつなんだ?」


「一か月後です」


「ちなみにどれくらい進んでするんだ?」


「まぁまぁ、その話は良いじゃないですか」


「急に話をはぐらかすな」



 これは、もしかして。



「何も出来てないんじゃ...」


「な! 何もってことはないんですよ! 一応構想はいくつかイメージしてて」


「つまり、一か月前にしてまだ構想段階ってことなのか」


「だ、大丈夫大丈夫! イメージさえ浮かべばあとは錬金術でちょちょいのちょいなんですから!」


「本当なのか」


「29号は心配しなくてよろしい。良いから店番をしてください。ほら、次のお客さんですよ」



 シルヴェルトが言うや、また店のドアが開いた。


 そこに居たのは甲冑を着込んだ身なりの女性だった。腰には剣を下げている。



「やぁ、シルヴィ。おはよう」


「おや、エレナ。またポーションですか?」



 どうやら冒険者のようだった。



「いや、問題発生だ。君の力を借りたい」


「ああ、そっちの方向の話ですか」



 なんだか、話の雰囲気がさっきのご婦人とは違うようだ。



「なんだ?」


「29号、これもこの工房の仕事です。街に出ますよ」


「なんだなんだ?」



 なんだか分からないが、シルヴェルトについていくしかなかった。

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