第3話 開店時間
「さて、では店番をやってもらいましょう。やり方は分かりますね」
「ああ、なんとなく」
俺はさっそく服を着せられて店に立っていた。
いきなりホムンクルスを立たせてお客さんはびっくりしないのかとか思うところはあったが主の言うことだから仕方ない。
工房から一部屋出た表にはポーションとか魔力回復薬とか各種素材のインゴットとか良く分からない機器とか、錬金術で作られた品々が並んでいた。ファンタジー世界の陳列棚と言った感じだ。
「お客さんが来たら対応する。品切れしたらバックヤードから品出しする。OKですね」
「了解だ」
ホムンクルスとして知識が備わっている。しかし、それ以前に前世の学生時代にコンビニバイトしていた知識も備わっている。とりあえずそんなに難しそうでもない。
というか、こんな辺境の街で錬金術工房なんかしてお客さんは来るんだろうか。
まぁ、まだこの世界の知識についてあまり明るくはないので何とも言えないが。
「最初は私もここに立ちます。一応、うまく出来るか確認しなくてはならないので」
「分かった」
「とりあえず、もうそろそろ開店ですから。入り口を開けるように」
俺は言われるままにドアの施錠を解除した。
魔法による施錠で、魔力を通すと解除出来た。
俺はドアを開けて表に出る。
上を見上げると看板がかかっていた。
『錬金術工房カエルレウム』、それがこの店の名前らしかった。
表から見える街は朝焼けを浴びて輝いて見えた。
この店は岬に続く坂の上にあるので街を一望出来た。海辺の街。海岸沿いには船もそれなりに止まっている。
漁業も盛んなのだろう。
建物は白を基調としたものが多く、景色は青と白と緑ではっきりとした色合いだった。
「結構いい街でしょう?」
気づけば隣にシルヴェルトが立っていた。
「起きたばかりのあなたにはまだ分かりませんかね」
「いや、なんか気分が良くなる街だな」
前世の記憶とかあんまり話すと面倒なことになりそうだから言わないが、昔テレビの旅番組で見た地中海の港町を思い出した。
どうにも穏やかな気分になる。
「ええ、旅の途中で出会ったこの街に一目ぼれして、ここに住むことに決めたんです」
「ここで生まれたわけじゃないのか」
「その通り。生まれも育ちも王都で、王都のホーエンハイム錬金術機構に勤めてたんですが、色々あって辞めて今はここです」
「良く分からないけど、でかい研究所みたいなところに居たってことか?」
「そうですね。この国どころか世界でも有数の研究所でしたが、いかんせん忙しすぎました。私には合いませんでしたねぇ」
シルヴェルトは苦笑していた。
なにか、どうも色々あって転職した的な境遇のようだ。
身に覚えがあるので同情の気持ちが湧いたが表に出すべきではないだろう。
俺はあくまでしもべのホムンクルスなのだから。
「今はこの街で穏やかに錬金術の工房を営んでいます。生きていく分は稼げていますから、この生活を気に入っていますよ」
「ふぅん、満足してるなら何よりだ」
悠々自適なセカンドライフみたいな話か。
憧れる。いや、憧れるというか、ある意味俺も今セカンドライフが始まったところなのに気づいた。
そうか、これからこのファンタジーな街で、この少女とともにのんびり生きていくのか。悪くない。悪くない転生ライフだ。
「さて、そのうちにお客さんも来ます。店番をするように」
「本当にこんな辺鄙なところにある店にお客さんが来るのか?」
「失礼な。生きてく分の稼ぎはあると言ったでしょう。ちゃんと来るんです」
あまり信じられなかったがちゃんと稼げているというなら少なくとも来ないということはないのだろう。
俺は大人しく店の中に戻り、カウンターに立つ。
「ふむ、少し表情が固過ぎますね。接客業なのだから笑顔を作りましょう」
「あんたがこういう風にデザインしたんだろう」
「まぁ、そうなんですけど。ふむ、そこは失敗でしたね」
嘘だった。仏頂面なのは生前からだった。生前もあまりに表情に変化がないので人間関係に苦労していた俺だ。むしろホムンクルスという大義面分が出来て楽かもしれない。ずっと仏頂面でも誰も文句を言わないだろう。
と、その時ベルの音が鳴った。ドアが開かれて、お客さんが入ったということだった。
驚いた。開店と同時に人が来るほどだったのかこの店は。
「いらっしゃいませ」
俺は言った。
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