二。

「あれから、一年振りだな……」

 その夜。

 あやかは、さんぽがてらに近所の公園の中を歩きながら帰宅へと向かっていた。

 すると、あやかのうしろから、ふと、同じ公園の中から、低い男の声が聞こえたのだった。

「え?」

 あやかはその場に立ち止まり、うしろを振り向いた…。

 だけど、薄暗い公園の中には自分以外、人の姿は見当たらなかった……。

「……」

(誰もいない……。だけど…今の声、どこかで……)

「……」

 気のせいかな、とあやかは、また歩きだそうと正面を向いた。

 すると、

「みつけた」

 あやかの目の前に、至近距離に顔がいくつもあった。

「!?」

 瞬間、あやかはその顔の塊から後方に、すばやく距離をとった。

(この顔の群体…九十九神だわ……)

「!? 真正面のあの顔…もしかして、一年前の悪霊!!? もしかして…他の悪霊を取り込んで、九十九神化したの!?」

「……」

 九十九神は、それ以上何も言わなかった……。

「…?」

(……この悪霊…何か様子が変だわ……。静かすぎる……。いつもだったら、わたしの姿を見るや否や、逃げるか、有無を言わさず襲ってくるところなのに……)

 あやかが九十九神を観察していると、

「御名答ですよ」

 九十九神の後ろから、高い男の声がした……。

「!? 誰!?」

 あやかがその声の主に言うや否や、その男は、コツ、コツとブーツの音をさせながら、黒いロングコートもなびかせて、九十九神の後ろから、ゆっくりと現れた……。

「どおも」

 あやかの目の前に現れたその男を見たあやかは、直感で思った……。

(何この人…なんかヤバイ……)

「私、死霊使いのマトリです」

 マトリはその顔に微笑を浮かべながら、あやかに名乗った。

「マトリ……」

 あやかはマトリ達の事を警戒しながら、マトリの名前を復唱した……。

 マトリは、あやかに言った…。

「私が危険な存在だと、よくわかりましたね…さすが退魔師。あなたが光の存在なら、私は闇の存在。私は魔法を使う悪魔とも契約をしている実力者、ですからね……」

「悪魔……」

 ごくり、とあやかは唾を飲み込んだ……。

 マトリは、あやかに言った…。

「ですが、私が契約をしている悪魔よりも、この九十九神のほうが、強かったりするのです……なんせ、無数の悪霊が一体になって力を持っている、神ですから……」

「なるほど……」

 あやかは言った……。

「その霊力…あなたは間違いなく、退魔師さんですよ……」

 マトリは相変わらず笑っている……。

「わたしが退魔師……違うと言ったら…?」

 あやかは、すこしずつ後ろに下がりながら、マトリに言った……。

「そうなんですか?」

「ええ……。それじゃあ、そういう事だから……わたしはこれで……」

 あやかが、その場を立ち去ろうとしたそのとき、

「!?」

 九十九神の長い体が、あやかの行く手をふさいだ。

「っ」

「私は、どちらにしても、あなたのその霊力が欲しいのです……」

 マトリは言った。

 あやかは言った。

「個人を相手にしていたと思ったら…その後ろには、一個連体が……。皆でくるから怖いんだ……」

 あやかがマトリ達を警戒して構えるや否や、マトリが九十九神に指示をだした!

「ここは、あなたを手に入れる為に、あなたの命をいただきますよ!」

 マトリの指示のもと、九十九神があやかを目掛けて突進してきた!

「っ」

 瞬間、あやかは霊剣あらたかをつくりだし、そして…自身に向かってくる九十九神に向かって、地面を蹴った……ーー

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