第4話

 「慶、あれ見て」



クラスメイトとカラオケに行った帰り道、慶の友人が道路を挟んだ反対側の歩道を指さす。

そこには、海人が女の子と並んでクレープを食べている光景があった。



 「あれって、浮気?」


 「いやいや、そんなんじゃないでしょ」



友人の疑問に慶は笑って返す。

浮気も何もそもそも本当に付き合っている訳でもないのだ。

咎める権利など慶にはない。ないが、



 (……何よあれ!?)



心の中の慶は気が動転していた。



 (あの子って、図書委員でいつも一緒に居た子よね!?何で2人でクレープ食べてんの!?委員会の仕事じゃなかったわけ!?)



頭でぐるぐると考えているうちに、海人は立ち上がり学校の方へと歩いて行く。



 「追いかけなくていいの?」


 「別に、私は寛容な心の持ち主だから」



今追いかければ、良からぬ事を口走りそうで、慶の足は逃げるように家へと向いた。



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嫌いな授業は何か?

そう問いかけられた時、海人は即答する。

体育だと。



 「よっしゃー!やりい!」


 「清志!少しは手加減しろってー」


 「よっ!さすがバスケ部のエース!」



海人の眼前で行われていたバスケの試合で、清志がバスケ部のエースらしいスリーポイントシュートを華麗に決め、ゴールパフォーマンスをしている。

体育の授業でも手を抜かず、全力で楽しむ姿は運動神経が良い陽キャにだからこそのものだ。



 「「キャー!守口君!」」



ネットを挟んでバドミントンをしている女子達も手を止めて黄色い声援を送っている。

特に他クラスの生徒は普段教室で話していない分、自分をアピールしようと必死な者も居る。



 (……何か、楽しそうだな)



 「男子はすごく盛り上がってますね」


 「!?き、城崎さん!?」



ボーッと眺めていると、ネット越しに城崎さんが話しかけてくる。

3クラス合同で体育は行うため、その場に居るのは分かっていたが、話す機会があると思わず驚く。



 「女子は男子のバスケばかり見ていて、授業になってませんよ」



今日の体育は基本的に自由に動いていいため、女子は男子のバスケを観戦している人ばかりだ。

自由とはいえ、そこまで許されている事に驚きである。



 「でも、城崎さんからすればラッキーなんじゃない?」


 「うっ!ば、バドミントンはまだできる方ですよ!」



和泉は運動が大の苦手であり、それを海人が揶揄うと、頬を膨らませる。

そのあまりの可愛さに、海人の口元も緩み切る。



 (あ〜、やっぱ可愛いな〜)


 「う、疑ってますね!なら、見ててください!」



そう言って和泉はネットから少し離れて、羽を上にあげてラケットを振る。

しかし、羽に当たる事はなく、ラケットが空を切る音だけが聞こえる。



 「も、もう一回です!」



そう言って何度か挑戦するも、全て空振り。

恥ずかしさで涙目になっている和泉を見て、海人の口元はさらに緩む。



 「いや〜本当に可愛いな〜」


 「か、可愛いって、ちょっとバカにしてません?」


 「し、してないしてない!てか、今口に出てた?」



心の声が漏れ出た事に焦った海人だったが、和泉はその言動よりも一回でも羽を当てる所を見せようと必死になっていた。

その微笑ましい光景を見ていたせいで、海人はバスケが行われているコートに背を向けていた。

その結果、



 「危ない!」


 「ん─ぶっ!」



声が聞こえ振り向くと、海人の目の前は真っ暗になった。

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