第5話
(あー、何か暖かい)
手に僅かな温もりを海人は感じ取る。
誰かに握ってもらっているような感覚がする。
(これって、まさか……)
「城崎、さん?」
「悪かったわね。城崎じゃなくて」
海人が目を覚ますと、こちらに冷たい視線を向けてくる慶が居た。
「……おはようございます。ここは…」
「保健室。あんた、ボールが顔に当たって気絶したのよ」
そう言われ、気を失う直接の事を思い出す。
和泉に見惚れていたことで、コートから飛んできていたボールに気づけず、誰かの声で振り向いた結果、顔面に激突したのだろう。
「それでまあ、彼女の私が付き添ったってわけ」
「なるほど……迷惑かけたな」
「別に。伊達にずっと幼馴染やってないわよ。もう慣れてるから」
「……なあ、俺の手握ってたりした?」
「……してないけど?」
「そうか……」
(じゃあ、さっき感じた温もりは…?)
自分の手に視線を向けて海人は首を傾げる。
すると保健室の扉がノックされる。
「今先生居ないから、私出てくる」
そう言ってカーテンを閉めて、慶は扉の方へと向かう。
扉を開けると、微かに清志の声が聞こえてくる。
カーテンが意外にも防音の役割を果たしていて、何を言っているかは聞き取れない。
5分程経つと、扉を閉める音が聞こえ、慶がカーテンを開けた。
「何の話してたんだ?」
海人が戻ってきた慶にそう聞くと、慶は呆れながら言う。
「あんたの事を放ってそろそろ教室戻ろうぜって言ってきてさ。あいつ、自分がぶつけたくせに謝りもしないで……」
慶の言葉には、呆れと共に怒りも含まれている。
「別に戻れば良かったじゃねえか。守口の態度はさておき、慶の責任でもないし」
「馬鹿じゃないの?私が、海人を放って行くわけないでしょ」
「いやいや、友達は大事にしとけよ……」
「確かに清志は友達だけど…でも、私にとっては清志より海人の方が大事だから」
「え?」
「な、何よ…」
「いや、別に……」
慶が少し恥ずかしそうに言うものだから、海人も戸惑う。
(……大事とか、思ってくれてたのか)
ただの男避けの都合の良い奴としか思われていないと思っていた海人にとって、慶の言葉は意外なものだった。
慶との偽恋人の関係を終わらせたいのは事実だが、慶に大事だと言われ、嬉しいと感じたのも事実であった。
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体育の授業が終わり、海人の様子が気になった和泉は体操服のまま保健室へと向かう。
保健室のすぐそこまで来たところで、不機嫌な男子とすれ違う。
その男子も保健室に行っていたのか、扉が少し開いていた。
和泉は足早に保健室の前まで到着し、中に入ろうとすると、
「清志より海人の方が大事だから」
そんな言葉が聞こえて、和泉の足が止まる。
中に入ることはせず、サッと隠れてしまう。
(あの人は、天王寺さん……)
和泉は、どこかで海人と慶は噂通りの関係では無いのではないかと思っていた。
それは、慶が海人を見る時の目を見て感じていた事だ。
自分が海人の事を考えている時と違う目だと感じていた。
けれど、今の慶の言葉は、そんな和泉の考えを否定するのには十分なものだった。
(……バカみたい。クレープを一緒に食べただけで浮かれて)
もし、慶の気持ちが冷めたものなら、自分にもチャンスがあるんじゃないか。
そんな考えが甘かったと和泉は拳を握りながら思う。
(……邪魔しちゃ悪いよね)
和泉は立ち上がり、保健室を後にした。
次の更新予定
2026年1月3日 19:00
偽恋人の幼馴染と破局したい! 嘘泣き @usonaki
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