第2話
海人と慶は幼馴染である。
幼い頃、両親を亡くした海人は叔父に引き取られ、子育てが不安だった叔父は自分の友人の隣に住むことを決めた。
その叔父の友人の子供が慶である。
同い年ということもあり、2人は毎日のように遊んだ。
小学生の頃はずっと一緒に居た。
そんな関係が変わったのは、中学生になった時だ。
慶は美少女に成長し、男女問わず人が寄ってきた。
友人はすぐにできていたし、慶を好きだという人も沢山現れた。
対照的に海人は人見知りで、コミュ力も高くなく、友人はおろか慶ともカーストの差が付き、話す事も無くなった。
「ねえ、私の彼氏になってくれない?」
慶とマトモに話さなくなって一年、それは突然言われた。
学校から帰宅した海人が家で寛いでいると、突然インターホンが鳴り、一年ぶりに慶と話す事になった時だった。
「えっと、なんで?」
あまりに突然で、海人はそう聞き返した。
自分を好きだからという理由ではない事は分かっていた。
「最近、男子達が付き合ってくれだとかしつこいんだよね。だから、男避けに海人を使おうかなって」
元々、人付き合いが好きという訳では無い慶にとって、男子からの告白というのは面倒事だった。
だからこそ、幼馴染であり何の気も使わない海人にこんなお願いをした。
普通なら断るお願い。
しかし、
「分かった。付き合うフリをしろって事だろ?やるよ」
海人はこの提案を受け入れた。
この時の海人に好きな人が居なかったからか、
それとも学校一の美少女の彼氏という肩書きが欲しかったからか。
その理由は分からない。
こうして、海人と慶は偽物の恋人同士になったのだ。
それからすぐ、慶の口から海人と付き合っていると話されて、周囲を驚かした。
そして、皆が口を揃えて言った。
『美少女と根暗野郎、釣り合っていない』と。
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偽物の恋人関係は、高校生になっても続いた。
高校入学と同時に、慶はその美貌とカリスマ性からすぐに人気者に、海人はいつもと同じで独りだった。
中学の時と同様、慶の口から海人と付き合っているという話がされ、周囲から釣り合っていないと揶揄される。
この時既に、それが海人にとっての当たり前だった。
それでも、この関係を続けた理由は、海人に好きな人が居らず、慶と築ける唯一の関係だと思っていたからだ。
そんな考えが変わったのは今から一年前の事だ。
半ば強制的に入らされた図書委員
そこで、海人は和泉と出会った。
同じ趣味、似た性格、感じられる安心感
海人は出会ってすぐ、和泉に恋をした。
和泉ともっと話したい
和泉の事をもっと知りたい
そんな想いが、海人の背中を押した。
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時間は現在に戻り、放課後に海人と慶はいつも通り二人で帰路に着く。
もう何年も行っているカモフラージュ。
「はぁー!今日も疲れたー」
慶は人付き合いは得意だが好きではない。
遊びに行く頻度もそこまで多い訳ではない。
それでも誰も慶と離れたがらないのは、慶のカリスマ性あってのものだろう。
「おー!今日も夕陽が綺麗に見えるね〜」
住宅の隙間から見える夕陽を手を双眼鏡のようにしながら慶は言う。
登下校では、基本的に慶が話すばかりで、海人から話を振る事はない。
いつも通り慶が今日合った出来事を話続けて家まで着く。
「じゃあ、また明日」
「なあ、もうやめないか?」
家に入ろうとする慶を引き止めて海人が言う。
この数ヶ月、何度も言っている言葉を。
「やめるって、何を?」
「とぼけんなよ。もう何回も言ってる。この嘘の恋人だよ……」
「えー?別に良くない?私は誰とも付き合う気ないし。かと言ってフリーだったら言い寄られてウザイし」
「だったら、いつも一緒に居る奴らに頼めばいいだろ」
慶の周囲には男友達も多い。
彼らなら、喜んで慶の恋人役になるだろう。
「無理無理!清志達は友達だから。てか、海人だってこんな美少女の恋人がいた方が色々と嬉しいでしょー?」
「いや、俺は─」
「はーい!この話は終わり!関係は継続って事で!じゃあね」
「あ、おい!」
海人の静止も聞かず、慶は家の中へと入って行く。
これもいつもの事。
何かと理由をつけてはぐらかされる。
「……俺をなんだと思ってるんだよ」
そんな愚痴をこぼして、海人は家の中に入った。
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「……はぁ」
家に入った慶は、靴も脱がずにその場で座り込む。
「……また別れ話されちゃったかー」
この数ヶ月、何度も言われている話。
偽物の恋人関係の解消。
どうして海人がそこまで別れたいのか。
慶もなんとなく分かっている。
しかし、
「……こんな所で終わらせない」
慶の目にメラメラと炎が映る。
「せっかく曖昧な関係を築いたんだ。このままズルズルと続けて、そして─」
慶はその場で立ち上がり、握り拳を掲げる。
「そして、結婚までこぎつけてやる!」
天王寺 慶
幼馴染である須磨 海人と偽物の恋人関係を築く。
がしかし、いつしかその想いは本物に変わっていた。
じゃあ何故告白しないのか。
それは……
「……今さら、真剣に告白は恥ずいしね」
今更恥ずかしい。
ただそれだけである。
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