第8話

駅へ向かう道すがら、数人の住民とすれ違った。  彼らは一様に、光の不自然な歩き方や、血の滲んだ包帯代わりに巻かれた不格好なキッチンペーパーを視界に入れると、即座に目を逸らした。恐怖というフィルターが、光の姿を「関わってはならない異常者」として処理し、その実像を隠蔽していた。


 駅の自動改札を抜ける直前、制服姿の駅員が光の前に立ちふさがった。 「お客さん。その怪我、救急車を呼びましょうか」  駅員の目は、光の左腕に固定されている。光は無言で首を振った。 「いや、放置できる怪我じゃない。こっちへ」  駅員が光の肩に手を置こうとした。その瞬間、駅員の人差し指が、光の鎖骨のあたりを特定の規律で三度、叩いた。  光の全身の強張りが、一瞬で消失した。  駅員は光を駅員事務室の奥にある、窓のない小部屋へと誘導した。  そこで駅員は、警察に連絡する素振りも、怪我の理由を問う素振りも見せなかった。ただ無言で、救急キットから医療用ガーゼと抗生物質を取り出し、光の傷口を手際よく処置した。 「次の急行に乗れ。終点で降りれば、迎えがいる」  駅員は光のポケットに一枚のICカードを押し込み、出口へと促した。

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