第7話
階下で玄関のドアが開く音がした。 「ただいま。今帰ったよ。誰もいないのか?」 男の声だ。 光は跳ね起き、柳刃包丁を握りしめた。周囲はすでに暗くなっている。 男が階段を上がってくる。一段ごとに、木材がきしむ音がする。 男が二階の踊り場に姿を現した瞬間、光は影の中から飛び出した。 男は咄嗟に左腕を振り上げた。包丁の刃が男の腕をえぐり、骨に当たった衝撃で、鋼の刃先が鋭い音を立てて折れた。 折れた刃の破片が、光の左腕に突き刺さった。 男は呻き声を上げながら階段を転げ落ち、キッチンへと逃げ込もうとした。光は折れた包丁を握り直し、背後から男の背中に突き立てた。 男がシンクに縋り付く。光は男の首筋を掴み、シンクの下から牛刀を引き出した。 光は、男が微動だにしなくなるまで、その牛刀を振り下ろし続けた。
すべての動きが止まった後、光は脱衣所へ向かった。 男のポロシャツと半パンを拝借し、血まみれの自分の服を脱ぎ捨てた。 シャワーを浴びる。排水溝に吸い込まれていく水は、最初は濃い赤色だったが、次第に透明に近づいていった。左腕の傷口からは白い骨が覗いていたが、光はタオルでそれを固く縛り上げた。 鏡の中に、清潔な服を着た一人の青年がいた。 光は、まだ濡れたままのスニーカーを履き、玄関から夜の街へと歩き出した。
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