第2話
電車が郊外の、静寂が張り付いたような駅に滑り込んだ。 光は意を決したようにホームに降りた。この駅で降りた乗客は、光を含めて三人しかいなかった。自動改札を抜けた時、他の二人の姿はすでに視界から消えていた。 光は一度立ち止まり、肺の底にある熱を吐き出すように長い溜息をついた。 駅周辺は、人工的に整えられた高級住宅地特有の静けさに満ちていた。規模は小さいが、手入れの行き届いた高級スーパー、パリの裏路地を模したテラス付きのカフェ、赤と白のテーブルクロスが眩しいフレンチレストラン。どの店も、指紋一つないガラス越しに、中の人間が優雅にフォークを動かす様が見て取れた。そこでは時間は、アスファルトの上とは違う速度で、滑らかに流れているようだった。 ガラスに反射した太陽光が、光の網膜を容赦なく刺す。
光は商店街の端にある、周囲の景観から取り残されたような金物屋に入った。 店内の薄暗がりの中で、光は棚の一角を凝視した。主人が声をかける前に、光は一本の柳刃包丁を手に取った。安物のステンレス製ではない。職人の銘が入った、鋭利な鋼の刃だ。光はレジに二万円札を置き、釣り銭を受け取ることなく店を出た。 デイパックの中に収められた包丁の重みが、歩くたびに腰に伝わる。 商店街を抜けると、道幅は広くなり、街路樹の緑が濃くなった。血統書付きの犬を連れた婦人が、涼しげな顔で通り過ぎていく。陽炎がアスファルトからめらめらと立ち上り、視界を歪める。光は一心不乱に歩き続けた。誰一人として、血の通わない機械のような足取りの光に、注意を払う者はいなかった。
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