愛してるとか、なんとか
要するに、優等生というものだ。
月長は財閥の一人娘。お金持ちで品のあるお嬢様。
そんな彼女は、密かに恋をしている。
初恋はペットのゴールデンレトリバーだった。
しかし、人間に恋をするのは初めてだったのだ。
だからなんとなく意識してしまう。
興味を持ってしまう。
無意識に目で追ってしまう。
そんな生活がここ数ヶ月起こっている。
その相手は、男子…
ではなく、女子であった。
早宮琥珀。彼女は、学校の中で一番に話しかけてくれた女子生徒だ。
友達ができなかった入学当初。
早宮は、帰る方向が同じだったからと色々な場面で話しかけてくれた。
最初、私は早宮が女神だと感じた。いや、今も時々思う。
神様のように優しく、美しい…。彼女に無駄はない。
私は、早宮の存在だけで救われていた。
クラスは三年間隣だが、近くの席になったことがない。
なぜか毎回毎回、瑠璃垣という勉学のライバルの隣に行ってしまう。
こいつは、個人的に恋のライバルだ。
五回連続以上隣の席。運命じゃないか。
こっちに運命が回ってくるはずなのに、あいつは仏頂面でその運命を根こそぎ持っていく。
数学の授業にて
「瑠璃垣。早宮に教えてやれ。あいつ、数学嫌いなんだとよ」
(なんだと…っ!!ちょっと勉強できるからって、早宮さんとお話しするなんて…!私なんて…っっ数学ぐらい教えられるのに!)
体育館にて
バレーボール。自分のチームは、奇跡的に早宮と同じだった。
「頑張ろうね。月長さん」
「うん。怪我しないようにね」
この間、早宮に顔面サーブを当てた奴は金の力で抹殺しようとしたがやめた。
疑問を持たれるのはだいぶ面倒くさいのだ。
あー。
ジャージ姿も長くて艶のある黒髪を一つに結っているのも白い肌も綺麗な瞳も長いまつ毛も全て可愛い。愛おしい。
その姿、瞬間を琥珀で固めておきたい。
「サーブは、しっかり狙って優しく打つ感じでやるんだよ」
「わかりました!!」
早宮が瑠璃垣と会話をしている。
とても真面目に楽しそうに。
そして、慣れない手付きでボールを飛ばす。
その姿は初々しく美しい。
二、三回もすれば、彼女は慣れたのかボールは真っ直ぐいい加減で飛んでいった。
その姿に瑠璃垣は、早宮にフォローした。
「そうそう。上手」
その低い声で発した一言。それだけで彼女の心は何度も射止められる。
早宮の乙女の甘い眼差し。儚く綺麗な横顔。少し淡く赤い頬。
「ありがとう!!」
そんな元気な声が嬉しそうな笑顔が辛かった。
早宮は、瑠璃垣に恋をしている。そんなのわかっている。
恋する人は、少しづつ綺麗になっていく。
私は恋を経験したってちっとも綺麗にならない…。
♦︎
昔からあまり感情を出すのが嫌いだった。
部活でもやる気あんのかとか言われる。
お前は勉強だけだ!と寝る間も惜しみながら勉強してるのに大人は認めてくれない。
それを思っていたのは、中学ぐらいまでだった。
高校に入ってから、お金のことぐらいしか興味なかった。
金融、日経平均株価、投資…
いつも自分の利益を考えてしまう。
自分は頭がよくなって、名門大学に入学し、自分で起業して、社長になりたい。
そして大儲けする。億万長者になる。
そんな大きな夢は最近崩れてきたところだ。
進路も大体が推薦で入れそうになった頃だ。
なぜか、隣の席になりやすい女子生徒に興味を持ち始めてしまった。
そいつは幼稚園も同じなのに、今まで話した記憶のないやつ。
しかし、興味というのはある日突然、現れるものである。
この間の理科の時間。
ただ自分の予想を授業中に話しただけで、それに笑顔で絶賛してくれた。
数学の時間。
わからない問題をただただ教えただけなのに、嬉しそうに笑顔になった。
体育の時間。
バレーボールについてアドバイスしてみたら、ありがとうと言われた。
自分の持っていた印象とはだいぶ遠かった。
ただの陰気臭い根暗女かと偏見を持っていたが違ったらしい。
そして、彼女に興味が湧いた。
そうすると、彼女も段々話してくれる。
大元、授業か勉強である。
それ以外知らないが、知りたいことはある。
何を考えているのか。無表情のまま何分耐えられるのか。なんで普段は笑顔を隠すのか。
もう少し、その感じで生活すればいいのに。そのほうがずっと印象がいい。
利益ばかり考えてしまう自分には疑問しか残らなかった。
♦︎
『ごめーん。家にメイク道具忘れちゃったの!!店まで来てくれない?』
スマホを見るとメールが来ていた。母からである。
急いで鞄を置き、自転車に跨った。
場所は新宿歌舞伎町のキャバクラだ。
きらきら光る街、車。人混み。ネオン。
「親方ぁー!!今日も可愛い女の子いるよ!」
うるさいキャッチ。一つ、二つぐらいしか歳が変わらないのが不思議だった。
飲み屋と少し危ない本屋の間の暗い路地に入る。
足元にネズミやゴキブリがいたが、極力見ないようにしている
そして裏口のドアを開けた。
「やっとキタァー!!遼ちゃんありがとー!!」
母は、厚化粧に高さがあるヘアスタイル。服装は普通よりは露出多めである。
「はい。これ」
渡したのは小さいのにパンパンに中身が入ったポーチだ。
「完璧!!ありがとっ!!あっ、そうだー!夕飯まだでしょ?終わったら食べに行こうか」
母の仕事が終わるのは夜の12時ごろだが、明日は土曜なので店で待つことにする。
母は、俺の大学の学費のために日々働いている。
だから難関私立大学には行かず、国公立大学を目指す。
母は昔から馬鹿な人間になるなと言っていた。
それが頭がいい、悪いの馬鹿なのかは分からなかったが、そのために勉強しているもんだ。
路地裏で中年男性に媚を売り、金をもらう若い少女。
母は昔、そんな仕事をしたおかげで遼ちゃんが産まれたと言った。
それと同時に父は高学歴だからと、冗談混じりに頭がいいことを嘲笑してきた。
そんな母だが、母にとっては恵まれていない子供なのにも関わらず、愛が不足しているとは思ったことがない。
努力を認めてくれる人は、母以外いない。
そう思っていた。
しかし、その努力を赤の他人が認めてくれたのだ。
早宮琥珀だった。
一番近くて遠いキミ 湯沢綾汰 @Harukaze1224
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