第2話 うさぴょん
「そういえば……このカーゴシップは、何て名前にしたの?」
「シンプルな方が良いと思って『
わざわざパステルカラーに塗っておいて、その純和風の名前なの? と突っ込んではいけない。
倉持舞奈というのは、そういう女である。
笑いを取るためにやっているのではない。ファッション的には可愛らしいものが好きだけど、根っこは純和風が好みなだけ。茶筅でカシャカシャと点てたお茶で、流行のスイーツを食するのが舞奈だ。
……私も、そこに慣れるまで一年かかったけどね。
舞奈に言わせれば、
移動しながら、お互いに母艦と艦載機として登録し合う。これで正式なバディだ。
ううん……さっきから、着信の合図が五月蠅いな。
日本全国の高校一年生が、一斉にマッチングVRMMOに初ログインしたんだもん。初心者向けの狩り場へと向かうカーゴシップが、集まって来てしまうのは無理もないこと。でもって、こんなカラーリングをしていれば女の子の艦だと一目で解る。
さっそく、ちょっかいをかけてくる輩が多過ぎ!
このゲーム本来の目的からすれば、彼らの方が正しいのだけどね。
そろそろ狩り場に到着するから、着信拒否も出来ない。私の無線だけ受ける……なんて設定は、ゲームの性格からして許されていないのよ。舞奈の機嫌が悪くなる前に、マキちゃんのコクピットの移動しようっと。
「ああ、六花。狙うは『うさぴょん』のみよ。『○ッキー』や『キモいの』とはエンカウントしないようにね。『チュンチュン』には、まだ勝てないからちゃんと逃げて」
他の人が聞いたら、訳が解らない台詞。
翻訳すると……ウサギ型だけを狙って、ネズミ型やイモムシ型とは戦わないように。スズメ型は強すぎて、まだ勝てないから逃げなさいよ。と言っている。
この世界は、環境保全用のAIが暴走し、『地球環境を蝕む最大の要因は人類』と判断。ネットワークを経由して、産業用などの各AIを唆して、人類を滅ぼそうとしている設定なの。
ファンタジーでの魔物代わりに登場するのが、無人戦闘マシンというわけ。
本来は中二病的に『○○式×× 弐型』とかいう型式番号みたいので呼ばれているんだけど、可愛くないという理由で舞奈が勝手にそう呼んでいる。ニュアンスで解っちゃうから、問題なし。
私にも、中二病な趣味は無いからね。
再びコクピットに収まり、艦橋の舞奈との無線を繋いだ。
「で……うさぴょんを幾つ倒せば、二人分のカーゴパンツを買えそう?」
『レアアイテムが出なければ、九か十くらいかな? もちろん、補給が必要になるミサイルは使用禁止。エネルギーパックが必要になるビームガンも使わずに、パルスレーザーと、ビームソードだけで何とかして』
「あの……舞奈さん? 私は初陣なのですけど?」
『経費節減! 出来れば、シールドも無傷で済ませて欲しいくらいよ?』
世知辛い世の中だなぁ……。
ネズミ型や、イモムシ型は無視しろというのも、被害の割に実入りが少ないからなんだよ。舞奈のパンツをそこらの奴らに覗かせたくないから、ご期待に添えるよう頑張るけどさ。
金策に苦労するのも、RPG初期のあるある話だからしょうがないね。
私も、せめて移動中に紅茶やコーヒーが飲めるように、ケトルとかカップとか欲しいもん。早くお金を貯めなくちゃ。
ちなみにこのゲーム世界で稼いだゴールドは、一万分の一の比率で変換して、リアルのお小遣いにも出来る。デート代にしろという意味らしいが、VR世界とリアル。どちらにどれだけ振り分けるかは将来、悩みそう。
『六花。そろそろ出撃して。ちゃんと、うさぴょんを狙ってね』
ハッチが開いたので、マキちゃんで飛び出す。
砂埃が凄いな。砂漠とは言わないけど、乾燥した赤土の荒野。
まだピカピカの
着地しようとした所に、よりにもよってイモムシ型のがいる!
いきなりアレとエンカウントしたら、虫嫌いの舞奈にしばらく口を利いて貰えなくなっちゃうよ……。慌ててバーニアを噴かして回避する。その目前で撥ねるウサギ型発見!
「舞奈。レイドは切ってるね?」
『もちろん。横入りされて、取り分が減ったら堪らないもん』
無事にウサギ型と、エンカウントできた。
これなら、舞奈も大喜びさ。
私たちのミニスカ卒業の為に倒されてよ、うさぴょん。
隔離された戦闘空間の中で、うさぴょんと睨み合う。
可愛く言っているけど、実際に見るウサギ型戦闘機械は、私のマキちゃんと高さに違いが無い。もちろん四つ足だから、長さはそれ以上なわけで……つまりは、とても大きい。
AIには毛皮の着ぐるみを着せるという愛嬌は無く、メカ剥き出しの、おどろおどろしい見た目なんだよなぁ。真っ赤な光を放つアイカメラは、とてもウサギっぽいのに。
これに、ビームソード一本で立ち向かえと?
『頭は狙っちゃ駄目よ。もし、頭脳ユニットがドロップしたら激レアなんだから』
つまりは、頭が弱点なんじゃないですか?
この上まだ縛りをかけてくる、舞奈の容赦の無さよ……。
戦闘メカがお金を持っているはずも無く、撃破報酬はドロップするパーツを売って得られるの。たま~に、高価なパーツを落とすんだって。
うさぴょんの場合は、通常はダンパー・ユニット。レアは姿勢制御ユニット。スーパーレアで頭脳ユニットらしい。
売値はそれぞれ二倍、五倍という嬉しさだ。
獲らぬウサギのメカ算用をしていたら、いきなり飛びかかってきた。盾で防いだけど、まともに衝撃を食らって、マキちゃんが尻餅をついてしまう。のし掛かられそうになったけど、舞奈の瑞雲からの援護のビーム砲が、それを防いでくれた。
『せめて、受け流しなさいよ。まともに受けてたら、盾も歪むし、マキちゃんにも傷がつくでしょ。修理代も高いんだから』
みんな貧乏が悪いのよ!
早く全方位にミサイルを放っても、舞奈がニコニコしているくらいのお金持ちになりたいわ。
よく考えてみたら、初心者向きのうさぴょんは体当たりと、噛みつきしか攻撃が無い。……跳ねる為の後ろ脚をどっちか潰せば、素早く動けなくなるのでは?
思い立ったら、試してみる。
飛びかかって来るうさぴょんの下に、潜り込むようにスライディングする。そして頭上に目がけて、えいっとソードを一振り!
手応え……有り。
ガシャッと着地したうさぴょんは、左脚を引き摺っていて跳ねられない。ムフフ……こうなると、うさぴょんもミッ○ーも大差が無いね。
這いずるだけなら、図体がデカくても楽勝だ。
グサグサと背中からソードを突き立てて、うさぴょんの息の根を止めた。初陣、初勝利!
ドロップしたのは、ダンパー・ユニット。レアは出なかった。こうして回収した部品を使って、都市では
コツさえわかれば、こっちの物。
マキちゃんの腰と太腿に擦り傷が出来ちゃうけれど、外装修理するほどでもない。いきなり飛び込んでくるチュンチュンを躱しつつ、ひたすらうさぴょんを狙う。六つやっつけて、七つ目と睨み合っている時に長閑なチャイムが聞こえて来た。
何、今のは……。
『六花、急いで仕留めて! 午前中の授業の終わり十五分前の予鈴だよ。お昼ご飯の危機』
「今日のAランチとBランチは何だっけ?」
『Aランは豚バラの生姜焼きで、Bランは鯖の塩焼きだよ』
「何よ、その格差。そんなの、Aラン争奪戦に決まっているじゃん!」
魚食いの舞奈ならともかく、育ち盛りの女子は鯖の塩焼きじゃ満足できない。
普通はカレーに逃げたりするけど、ウチの学食のカレーは香りがあっても辛くないから、イマイチ。パスタは中央アジア産を使っているのか、ぼそぼそで美味しくないし……。うどんや蕎麦じゃ、おにぎりをつけないと満足できなくて、コスパが悪い。パン系メニューは売店と被るからか扱ってない上、売店との距離的に先に決め打ちしないと売り切れる。丼物は、行ってみないと何が出るのか解らないから、ギャンブル過ぎる。カツ丼は当たりで、牛丼は普通。それ以外は、外れと言ってしまおう。ラーメンは、評価にすら値しない。
マジで、ランチを逃すと昼食が悲惨になっちゃう。ランチはなぜか、外れなく美味しいんだけどさ……。
ずんばらりんと、急いでうさぴょんをやっつける。
もうちょっと、ミニスカ生活が続いちゃうけど仕方が無い。
間に合え~とばかりに、私たちは急いで帰路についた。
次の更新予定
このマッチングVRMMOの片隅で ミストーン @lufia
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