このマッチングVRMMOの片隅で
ミストーン
第1話 魔機鎧《まきがい》
二週間がかりの座学が終わって、いよいよヴァーチャル・グラスが配布される。
ヴァーチャル・ユニットと言われるゲーム端末も、今は標準化されてサーバーの中だ。接続端末も、初期はバイクに乗る時のヘルメットの様だったのが、ゴーグル型になり、今ではスポーツサングラスと変わらぬデザインになっている。
本当は目を覆う必要は無いらしいけど、不透明なシールドを付け外しする動作で、仮想空間と現実との認識の切り替えをさせるのだとか。……後でシールド部分を可愛くデコろう。
税抜き単価二千九百八十円。こうして高校一年生になると全員に配布されるし、もはや当たり前の玩具だ。
私、
いよいよ、この時が来た。
女子クラスの同級生たちは、キャアキャアはしゃぎながらも次々にジャックインしてゆく。
私もゲーミングチェアを軽く引き、身体がずり落ちないようにジェットコースターのような安全バーを降ろして固定し、年齢の割のボリュームのある若い肉体を挟み込んだ。バーチャルグラスの右のこめかみを二度タップすると、起動する。
ふわっと浮くような感じがして、私の意識はネットワークに接続された。
インターネットの歴史と、その悪用の歴史は、ほぼ同じ。その悪循環を断ち切るために『INO(世界ネットワーク評議会)』が設置され、正規の国籍を持つ世界各国の国民一人一人に、専用のIDが割り振られてる。だから、サブ垢なんて持てないし、偽造やID売買も複雑な生体認証を掻い潜るのは難しく、見つかれば重罪。
アンダーグラウンドな人たちは、未だに抵抗戦を続けているらしいけど、一般利用者の私には関係のないお話だよ。
すぐにアバターである仮想空間に生成された、私のグラフイックと対面できた。
(こういうのは、プライバシーの侵害にならないのかなぁ……)
顔立ちや体つきはもちろん、全裸のアバターの乳首や乳暈の彩り、恥毛の生え具合まで、恥ずかしすぎるくらいに完璧なコピー体になっている。ちょっと目を逸らしてしまうと、ここで大事な選択肢が提示された。
『あなたは、どのゲームを選択しますか?』
選択肢は三つ。
剣と魔法のファンタジーか、現代社会が舞台のオカルトものか、荒廃した未来都市舞台のSFか。
……ん? 何で高校の授業でそんな選択肢があるのかって?
これを読んでるあなた、どの時代の人よ?
脳に直接知識を転写する、通称『NOW(脳のシャレ)プリンティング』技術が一般化してるんだから、本来の教育なんて脳の発育に合わせた中学までの九年間で充分になったじゃん。
高校生の三年間は、その知識を使いこなす感性や創造性を磨くの。
そして何より、わざわざ政府がヴァーチャルグラスを配布する本来の目的。……少子化対策の婚活である。
今は仕事も、在宅で機械や車両を操りながら行える時代だもん。人と出会えるなんて、学生時代くらいのものだよ。
拡がる未婚、少子化を食い止める為、政府はVRMMOゲームを利用したマッチング・アプリを国家事業として製作した。日本の高校生を全て、アプリ世界に送り込むことで、共に遊び、恋愛、結婚にまで発展させようという政策だ。一緒に危機を乗り越える吊り橋効果も有るのか、実施後は独身者の数が激減しているそうな。
ちなみに、ゲーム内のエッチは黙認……どころか合意ならの但し書き付きだが、むしろ推奨らしい。マッチング目的だもんね。
だから、現実の自分そのものの身体を持つ、アバターが用意されるのだとか。
舞台を選ぶ所から、趣味嗜好の選別が始まっているのだ。
レクチャーを受けている時から、舞奈と話して、どこを選ぶかは決めている。
「荒廃した、未来都市で逢おうぜ。盟友!」
もう、後戻りは出来ない。
ネット・リテラシーや、プライバシー保護などの授業の合間の暇潰しに作成していたものだから、恥ずかしいくらいに凝ったデザインの下着をアバターに着せると、自動的に初期服がその上に重なった。
軍服風のジャケットに黒Tシャツ、タイトなミニスカート……スカート、短すぎない? 婚活目的だから、アピールなの?
その内に、お金を貯めてカーゴパンツでも買おう。ジャケットに合わせるには無難だ。
職業選択は、もちろんパイロット。
この世界で『
ん? キャラクターのパラメーター?
そんなものが設定できるわけが無いでしょ。このアバターは、自分自身だもん。体力をつけたければ、リアルにジムで身体を鍛えなくちゃいけない。大昔と違って、課金したって強くなれないのよ。
強くなりたければ、自分を鍛えるしかない。ウエストを細くしたい時も同じ。
アバターと一体化して、スタート地点となるガレージに出た。
待ちかねたかのように、無線のコールが来る。
『遅いぞ、六花!』
「ごめん、今どこ?」
『いる場所の座標を送るね?』
マキちゃんのコクピットに乗り込んで、座標を入力する。
お互い初期位置だもん。都市内なら、オートパイロットで行けるでしょ。
外は、赤っぽく煤けた空。取り囲むは崩れかけたビル群と、退廃的な雰囲気だねぇ。まだ新品、ピカピカのマキちゃんと擦れ違うのは、歴戦の跡がありありの同型機。二年生か、三年生か……この世界に慣れ切った感じの機体だ。良いなぁ。傷一つ無いマキちゃんが、いかにも新人っぽくて、ちょっと恥ずかしい。
指定された座標は、都市ゲートの近くの待機スペースだ。
新旧のカーゴシップが待機している。舞奈はどこ……?
うわぁ……カタツムリっぽい形の『マイマイ』型を、白を基調にしてピンクを配し、水色を差すパステルカラーに仕上げたのか。あの娘らしいけど、意外に似合ってる。
貝の位置にあるカーゴスペースのハッチが開いたので、マキちゃんで飛び乗った。ビーコンに導かれるまま、勝手にマキちゃんはメンテナンス・ベースに入って固定される。
コクピットを出ると、すっ飛んできた細身の身体に抱きつかれた。
「本当に、六花のまんまなんだ」
「舞奈を見て、私もそう思った。こっちでもよろしくね、盟友」
「こちらこそ。でも……まずは、この短か過ぎるスカートを何とかしたいねえ」
「同感。そんなにパンツを見せびらかす趣味は無いって」
メカニックを選択した舞奈は、なおさらだろう。
身を乗り出したり、しゃがんだりしなきゃならないから、私より余計なサービスシーンが増えそうだもん。
「そんじゃあ、稼ぎに行きますか」
二人して艦橋に上がる。
マキちゃん同様、新品そのままだからお茶も飲めない。少しずつ、住みやすくしたいねぇ。
ん? 婚活どうしたって?
高校一年まで……三月生まれだから、十五年も美少女をやってると男子にはうんざりしてくるのさ。
チラチラ、ジロジロとこそばゆい視線を向けてくるだけの子とか、親切だけど下心丸出しの子。俺はモテると自信満々に口説いてくる子。
中一の時に、顔だけは良いけど自信満々タイプを即座に拒否ってやったら、それを見ていた舞奈に大絶賛されたのよ。その男子と小学校の時から一緒で、虫が好かなかったらしい。モテ男の自信を木っ端微塵に打ち砕いたのが、気持ち良かったのだとか。
バラしちゃうと、舞奈のダサ眼鏡は男除けだ。
顔立ちが派手な私と違い、素顔になるとお淑やかな清楚系美少女へと大変身する。
非常に男子受けの良いタイプだもん。やはり、相当苦労してきたらしい。
他の女子と話すとやっかみを買いそうな話も、こいつ相手なら遠慮はいらない。
お腹の中に溜め込んでいた事を互いにぶちまけ合って、親友どころか、幾多の戦果を潜り抜けてきた戦友のような気分。戦友では可愛くないから、互いに盟友と呼び合うようになったのだよ。
同性愛に走る気はないけど、こっちが追いかけたくなるような相手じゃないと、うんざりするだけ。とはいえ、高額な独身税を取られるのも嫌だよ。
最悪は、人工授精で子供だけ産むか……なんて事も考えちゃうけど、それもまだまだ先の話。
せっかく、ログインできるようになったんだもん。まずはゲームを楽しみましょう。
カーゴシップは都市のゲートをくぐり、赤茶けた荒野へと進み出た。
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