6話 緑の青春はほろ苦い
「明日も共に
落ちた流星を眺めながら我がそう言えば、最愛の義妹は即座に首を横に振った。
む……?
むむ?
「明日は
そ、そうであったな。
我が義妹は、幼きながらもプロの
う、うむ。
無職になりかけの我と違って義妹は多忙である。
「ふっ、ならば明日は全てを蹂躙してまいれ!」
兄らしく、義妹を大いに鼓舞したところでそっと
……。
…………。
なぜ!?
なぜなのだあああん!?
いやっ、理由は最も至極当然であるがッ!
あんなに我と遊びたがっていた花恋がッ!
バッサリと! 躊躇なく! 首を横に振っていたあああああん!
さっきまでいい雰囲気! これぞ青春って思ってたのは我だけえええ!?
我はベッドにダイブし、悶絶しながらゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロしまくった。
……いや!
このように取り乱すなど、征服王にふわしくない。
物事には原因があるのだ。支配者たるもの、そこから目を背けてはいけない。
「……いざ我と遊んでみたら、退屈であったと?」
兄君、おもんな! つまらんわ~! との烙印を押された可能性がある。
うむむむ。
冷静になればなるほど、それしかない。
対する我はLv1。
ゆえに
「ぐっ……であるならば、我がやることは一つ」
明日は昼間からエデンへと赴き、さらなる高みを目指すのだ!
義妹との青春がかかっているのだからな!
◇
白くやわらかな風が頬をなでる。
空は青く澄み渡り、あたたかな陽光がじんわりと身体を照らす。
『塔剣』でさえずる小鳥たちの声が、昼下がりの陽気にそっと溶け、また優しく奏でられる。この癒しの名曲を聞いているだけで、胸のざわめきが静かに洗われてゆくようだ。
我は悠々と【白き千剣の
「心地よいな……戦乱に追われず、王としての重責もなく、労働からの解放とは」
午前中は退職手続きなどに追われたが、滞りなく順調であった。
それにエデンアプリに入っていた仮想金貨26万枚を、『現金化』できたのも幸先が良い。
我が銀行残高は、確かに現金26万円が追加されたのだ。
さあ、今はただひたすらに。
青春を求め、白い大平原へと一歩一歩を踏み出そう。
まさに胸躍る時間————
「死ね! 【亡者】どもが!」
「ちっきしょうが! 俺がため込んだ金貨を返しやがれ!」
「クソみたいな平原だよほんと!」
「流星とか理不尽すぎるっての!」
なにやら不快な雑音がすると思えば、【亡者】たちと戯れる
なにやらひどく【白き千剣の大葬原】に対し憎悪を込めておる。
「んだよ、このばかでけえクレーターはよお!」
「こんなんじゃ身を隠せやしねえ!」
ほう、先の流星により地形が軽く変形してしまっているな。
スキルの被害がフィールドに影響を及ぼすとは、面白いげぇむよな……まるで現実のようだ。
ふむ?
となると、街などに【星に願いを】落としたらどうなるのだろうか?
戦略級魔法としてはいささか威力と制御に不安はあるものの、人族に大打撃を与えるのも愉快よな。
「いや、我は義妹との青春を楽しむために歩むのだ。かような殺戮衝動は、
可愛い義妹の顔を思い出す。
それから我は
そこではたと気付く。
【亡者】どもが我を見かけても襲ってこないのは、なぜだろうか。
【身分/幼き不殺の魔王】と何らかの関係がありそうであるな。
「ん? あの子って角が生えてるから、【身分/
「うわ、珍しいな! しかもすごく可愛い……」
「っていうか……幼いのにめっちゃエロい体つきしてね!?」
身分についての説明を確認しようとした矢先、物騒な雰囲気をまとった者に遭遇してしまった。
「確かに……あんなキャラクリできる身分ってあるんか?」
「レア身分だろうなーいいなあー、あーやばい。俺、ブチおか〇たい」
「おまえロリコンだもんなー」
「まあアレはロリコンじゃなくても反応するだろ」
無礼な視線を送ってきたのは、3人の
早々に
「よっ、お嬢ちゃん」
「一人で何してんの?」
「俺らと遊ばない?」
しかし、三人の
「もうすぐ日も沈むし、この辺はわりと治安がよくないよ?」
「一人でいるより、俺らといた方がいいんじゃないか?」
「【亡者】も
花恋から聞いた話によれば、エデンは
さて、彼らのレベルは……サトゥーLv2、ゴトゥーLv3、|カトゥーLv4か。身分の方は、んん……ここからの距離ではまだ見えぬな。
「我はげぇむを始めたばかりでな。共に遊べば、迷惑をかけるであろう……」
「うっひょ……声も可愛いな」
「いや、俺らも始めたばっかの初心者でさ? てかなんで偉そう?」
「もう迷惑ならかかってる。股間がイラつく」
「そんなわけでー」
「ちょーっとこっち来て遊ばない?」
「もういいからこっちこい!」
「ふ、むっ?」
我を強引に捕まえようとダッシュしてきた輩たち。
即座に殴り潰そうとして、ふと躊躇う。
我は征服王。
気に食わぬ者のことごとくを武勇で捻り潰してきた。
その結果、どうであったか?
そう、何の青春も得られぬままに死を迎えたのだ。
ここでもそれを繰り返せば……いずれまた、武名を馳せ、君臨し、重責を負う未来になろう。
であるならばここは————
「ふっ、我を捕まえてみせよ」
我は高く伸びた白草地帯に飛び込み、その身を隠してみせる。
「お嬢ちゃーん、隠れても無駄だぞー?」
「こんな所に飛び込んでもすぐ見つけちゃうよ」
「茂みに隠れてのプレイを御所望かな? エロいことしまくろうね~!」
彼らはわざと恐怖を煽るようにゆっくり迫ってくる。
その児戯に等しい脅しは滑稽であるが、意外と面白い。
思えばこのように身を隠すなど、敵軍に奇襲をかける時でしかなかった。
命がけの緊張感とはほど遠い
ただ、
「ふう、草々の匂いが何とも
我は仰向けになり、白き草原をベッドにして寝ころぶ。
ふかふかな感触が心地よい。
解放感も格別だ。
我は胸いっぱいに緑を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。
これもまた青春の1ページであるな。
さあ、はよう我を見つけてみせよ!
『カタッ』
しかし、我の期待に反して我を先に見つけたのは
『カタカタッ』
「ほう」
地面からぽっこりと出た
見た目はグロテスクだが、やはり屍からは敵意は感じられない。
むしろ……友愛? いや、崇敬? の眼差しを向けられているような……。
よくよく屍を凝視してみれば、彼についての情報がずらりと出てくるではないか。
:
:『戦闘』、『採取』、『生産』、『儀式』……etc:
膨大な項目が浮上したので、我はひとまずそれらを流し読みしてよき案を思いつく。
……青春にサプライズはつきものよな。
自分たちが鬼だと思い込む青年らに、実は我が……我々がうぬらを喰らう鬼であったと驚かすのもまた一興よ。
これは我が拳で直接に処すわけではない。つまり、我が武名も広まらぬ。
よい、よいではないか!
我は一切の躊躇なく『戦闘』を選択した。
さらに『仲間を募れ』と命を下せば、屍は『カタカタッ』と顎を鳴らしながらコクコクと頷き地中へと潜ってゆく。
ふむ。可愛らしい奴よ。
それから我は草の影に隠れながら、ゆっくりと移動する。
先ほどの
「あっ、見っけ~! そんなところに隠れても無駄だぞー!」
「あー、もうめんどいわ! さっさとその装備脱げや!」
「俺らと一緒にエロSS撮って遊ぶかー、キルされるかー選ばせてやるよー?」
6人目の【亡者Lv1】に命令し終えたところで、ついに男たちに見つかってしまった。
だが草むらの影に乗じて蠢く存在が、彼らを横合いから襲う。
ほう?
なかなかに豪快なかじりつきであるな!
「さーってお嬢ちゃんのきょにゅッヴッ!?」
「ギャッ!? な、なんだ!? 【
「どっどうしてこんな大量に出て来やがった!?」
それは一方的で見事な蹂躙劇だった。
3人の
生存本能にすがりつく決死の想いと、暴虐な食欲がぶつかり合うさまは、生と死を凝縮した喜怒哀楽に満ちていた。
「あっ……だずげ……で……」
「じ、じにだぐないっ……がっ……」
「だめ込んだ金貨がっ……いっ……うぅ……」
彼らは助けを求めながらも、血だらけになってくぐもった悲鳴を散らす。そして数秒後には物言わぬ死骸となり、
臓物をまき散らし、ピクリとも動かない彼ら
「
近くの【亡者】にそう尋ねれば————
カタカタと首を横に振った。
……どうやら不味かったようだ。
どことなく哀愁漂う【亡者】へ、我は称賛の言葉を贈る。
「素晴らしい
:サトゥーLv2 キル → Lv1で転生 金貨20枚を取得:
:ゴトゥーLv3 キル → Lv1で転生 金貨60枚を取得:
:カトゥーLv4 キル → Lv2で転生 金貨80枚を取得:
ほう、金貨160枚……つまりは自販機のジュース一本分であるな。
「ふはははっ、この調子でコツコツ積み上げようぞ……」
死体も金貨ものう。
沈みゆく夕日を背に、我は【剣闘市オールドナイン】を目指した。
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征服王、幼女になる。スキル『青春』でエモい経験してたら、再び最強になっておった 星屑ぽんぽん @hosikuzu1ponpon
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