4話 流星エモ


 魔物を倒しても仮想金貨が手に入らない……もしや我が引き当てた身分は、ハズレ身分なのであろうか?

 これでは財も得られず、レベルアップもできぬぞ!?


「最弱のまま、だと……?」


 この、征服王であった我が最弱?

 ま、まあ我は青春を楽しめればいいので、そそそそこはまあ? 気にせずいこうではないか!


花恋かこいよ、戦闘はもうよい」


 魔物を倒しても無意味なら、無用な争いは避けたい。

 しかしどうする?

 いっそのことわざとキルされ、他のキャラに転生するべきか?

 いや、今からキャラの作り直しは花恋を待たせてしまう。なるべく義妹に迷惑はかけたくない。


「ひとまず【剣闘市オールドナイン】を目指そうではないか」

「うん、お兄がそう言うなら」


 我らはなるべく【亡者】と遭遇しないように白い大草原を進む。

 コツコツと背の高い草を慎重に避けながら、それでいて迅速に。


「ねね、おにい

「どうした?」


 ふと花恋が我に話しかけてくる。


「コツコツと、足元ばっかり見るのもいい。けど————」


 どこか呆れたように、冷たい声音で義妹は天を仰ぐ。


「少しは、上見て、歩く」


 釣られて上を見れば。

 我は満天の星空へ解き放たれたような錯覚に陥った。


「……綺麗な星空であるな」


【亡者】たちが周囲をうろつく真っ白な平原で、見上げる星空に、少しだけ感動してしまう。

 東京の明るく濁った夜空では、こんなにも綺麗な星空は見えぬから。


「こっち、来て。眺め、いい」


 花恋に誘導されたのは、ひどく斜めに突き立った巨剣であった。

 まるで巨石のようなそれを慎重に上り、ちょうどつかのあたりで我らは立ち止まる。


 色そのものを失ってしまった大草原に星明りが落ちれば、夜風に波打つ草葉が銀光に煌めく。

 そしてまばらにそそり立つ巨大な剣は、墓標のような静けさを伴い。

 我らをそっともてなしてくれた。



「……花恋よ。この巨剣は何なのだ?」


「みんな、【塔剣とうけん】って呼んでる。たまに空から降って来る」


「空から……? なにゆえ?」


「不明。天上で神々が戦争してる、噂ある」


 なんだか壮大でもあり、寂寥感にも溢れている。

 だが、それもまたいい。


 果たしていつぶりであろうか。

 こんなにも静かな気持ちで星空を見上げたのは。




:幼き魔王は大切な人と星空を見上げました:

:【青春×星空と共に】を経験したので、EXスキル『星魔法:星に願いを』を習得しました:


 ふむ……?

 新スキルを習得しただと?


 むっ、もしや我が身分は、敵を倒して成長するのではなく!

 様々な青春を経て、スキルを解放するのか?

 ものすごく面白い身分ではないか!


 それに新スキル『星に願いを』は……なになに、発動条件が『天候:星空』で、効果は『流れ星を生む』とな。



「お兄、ゆっくりチルできた?」


「うむ。花恋かこいのおかげよ」


「……よかった。私のお願い・・・・・叶った・・・


 普段から微動だにしない花恋の顔に、ふわっと柔らかな笑みが咲く。


「うむうむぅぅ……」


 隣で星空を見上げる義妹に、我は感涙しそうになってしまう。

『私のお願い、叶った』って!!!

『我の癒しこそが、義妹の願い』だったと!!

 もう可愛すぎるであろう!?


 無論、偉大な兄の威厳を保つため、決死の想いで涼しい表情を保つが……感情の濁流に押し流され、顔面崩壊寸前である。


 と、とにかく。

 この素晴らしすぎる義妹に無性に何かしてやりたい。


 この感情の行き場を見つけないと、顔がふにゃふにゃになってしまいかねない。

 そこで我は、先ほど習得したばかりの新スキルに思い至る。


「では花恋かこいよ。流れ星に新たな願いを込めてみよ」


 どうか次の願いは不詳の兄のためではなく、自分のために願ってほしい。



「ここ、流れ星、なかなか見れない」


「ふふふ。自ら願い事を作れるように、流れ星もまた作れるものぞ」


「そうなの?」


 愛しい義妹の問いに応えるべく、星魔法『星に願いを』をそっと発動してみた。

 ついでに我も何かを願っておこう。


 そうだな、うむ。

 我が義妹が幸せであるようにと。

 そして我は無職になるゆえ、お金がたくさん手に入るようにと。

 


:『星に願いを』……リキャストタイム720時間:


 ふむ、リキャストタイムは30日か。

 次に発動できるのが30日後とは、なかなか難儀な魔法よな。


 ずいぶんと長いが、まあよい。

 容易に流星を見れてしまえば、流星のありがたさも減ってしまうであろう。

 そんな風にのんびりと、満点の星空を眺めながら流れ星を待つ。

 すると数秒後にはキラリと瞬く星が現れた。


「ん、お兄。あれ」

「言った通りであろう————」


 夜空に一筋の光が、長い長い軌跡を描いていく。

 それは一瞬の煌めきなんかではなくて、永遠に我らの脳裏に焼き付くような、美しい流れ星であった。



「ん、待て。こちらに接近している、だと……?」


「隕石、到来」


「いや、ちょっ」


 まさかの流れ星は、我らのいる【白き千剣の大葬原だいそうげん】に落ちてしまった。

 正確には我らの遥か前方で、物凄い轟音とえげつない衝撃が周囲に波及してゆく。

 視界いっぱいに激しい明滅が広がり、多くの転生人プレイヤーと【亡者】が一瞬にして隕石の衝突に巻き込まれてしまった。

 

 我と花恋はその大惨事をただただ唖然と見つめるほかない。

 そして何より驚いたのは、視界に浮かびあがった無数のログだ。


転生人プレイヤーシュンLv3をキル……金貨56枚を獲得:

転生人プレイヤーポエマーLv10をキル……金貨620枚を獲得:

転生人プレイヤー政宗Lv3をキル……金貨31枚を獲得:

転生人プレイヤーなこねこLv5をキル……金貨102枚を獲得:

転生人プレイヤーナリヤLv14をキル……金貨1100枚を獲得:

:…………:

:……:


:合計 567名の転生人プレイヤーをキルしました:


 ほ、ほう……。








 不殺の魔王であるはずなのに……見事に殺しきっておるな?




:合計 金貨26万枚を獲得しました:


 ふ、ふむ。

 金貨26万枚って、リアルマネーに換金したら26万円よな?

 この一瞬で、月収の手取り分を稼ぎおったぞ!?




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