第2話 一悶着

 それから数日後、招待状を送った相手から次々と返信が届いた。招待状を送ったほぼ全員が参加を表明してきた。ネロは政務管理局で貰った書類に参加者を記入していく。


「うーん、やっぱり王様も呼んだ方が良さそうね」


 デリルは渋々王宮への申請書類を作成し、作成した書類はその日のうちに王宮と政務管理局に届け出た。


 翌日、デリルとネロがのんびり朝食を食べていると、何やら外が騒然としている事に気付いた。


「どうしたのかしら、シルヴィア?」


 デリルはダークエルフのシルヴィアに声を掛ける。


「こちらに」


 すぐにシルヴィアがデリルのすぐ後ろに片膝をついた姿勢で現れる。アサシンのシルヴィアは御庭番頭領おにわばんしゅうとうりょうとしてこの邸宅の警備を担当している。


「何かあったの?」


 デリルが訪ねるとシルヴィアが答える。


「正門に武装した王都警備隊が十余名、デリル様に会わせろと揉めております」


 御庭番とは別に正門などの出入口には警備員を置いている。今は正門の担当警備員が食い止めているが、そのうち有無を言わさず押し入って来そうだという。「どうしましょう? 押し入ってきたら消しますか?」


 シルヴィアは当たり前のように言う。不法侵入ならこちらに正当性があるからだ。


「そうは言っても相手は王都警備隊でしょ? 別に悪い事なんてしてないんだから普通に通していいわ」


 デリルは応接間に通すようにシルヴィアに指示する。シルヴィアはコクンと頷いてふっと姿を消した。


 それから少し待つとガシャガシャと鎧の音を響かせながら警備隊が入ってきた。


「デリルというのはどいつだ?!」


 隊長と思われる男が大声でわめく。


「私よ。なんなの、この騒ぎは?」


 デリルが言うと警備隊員数人がいきなり飛びかかってくる。


「動くな!」


 御庭番衆が背後に立ち、くないを喉元に突きつける。


「きさまら、抵抗するのか!?」


 隊長が顔を真っ赤にして怒鳴る。


「落ち着いて下さい。こっちは突然襲われたんですよ? 抵抗するのが普通ではないですか?」


 ネロが落ち着いた口調で隊長に言う。隊長がギロッとネロをにらんだが、ぎょっとした顔で態度を一変する。


「し、失礼した。おい、武器を降ろせ」


 隊長は剣を抜いた隊員たちに指示を出す。隊員たちは顔を見合わせたが、渋々隊長の指示に従う。「手荒な真似をして済まなかった。話を聞かせてくれないか?」


「隊長! こんな奴らに我が王都警備隊が……」


 血気盛んな隊員が隊長に意見する。


「この少年は、あの・・キューピッド・ネロだ。貴様らが束になっても勝てん」


 隊長は隊員を下がらせる。「弓術大会でジュリアス・アーサーに勝った少年だぞ」


 隊員たちがどよめく。彼らは毎週ジュリアスに武術を習っているのである。


「詳しいんですね」


 ネロはポリポリと恥ずかしそうに頬をいた。


「仕事柄、武術大会はチェックしているのだよ」


 隊長はそれはそれと切り替えるようにデリルをキッと睨んだ。「デリルさん、昨日提出された書類の件ですが……」


「あれがどうかした?」


 キョトンとした顔でデリルがたずねる。


「どうもこうもない! 三日後に帝都の皇帝と聖都の聖女が新築祝いに来るなどと政務管理局に申し出た挙げ句、王様も来たければどうぞと王宮に申請しただろう!」


 隊長が分かりやすく額に青筋を浮かべて怒鳴る。


「ええ、確かに」


「あんなデタラメな書類が認められるかっ!」


 隊長がさらにヒートアップする。「すぐに逮捕せよとの御達しだ。神妙にお縄を……」


「私を逮捕? 伝説の魔女をそんな少人数で捕らえられると思ったの?!」


 デリルはマントをひるがえして身構えた。怒りに満ちた緋色ひいろの瞳が燃え上がる。


「デデデッ、デ、デン、デン、デ、デデデン……」


 警備隊長がおかしなリズムを刻み始めた。「で、伝説の魔女?!」


 王都で伝説の魔女デリルを知らない者はいない。小学校の歴史の教科書にも載っている。勇者フィッツと共に魔王を討伐した、真っ赤な髪と緋色の瞳を持つ魔女。それがデリルだ。


「あんた、さっきからデリルさんって呼んでたじゃない。何を今さら驚いてるの?」


 驚愕きょうがくする隊長を呆れた目で見るデリル。


「いや、まさかあの伝説の魔女のデリル様とは……」


 いつの間にか敬称が様に変わっている。確かにこの世界ではデリルという名前はそう珍しくもない。考えてみればデリル温泉でも本人かどうか疑われた。


「そもそも私の他にこんな邸宅を建てられるデリルがいると思う?」 


「言われてみればそうですな。重ねがさねご無礼を……」


 隊長がすっかり大人しくなる。「するってぇとあの申請内容も本当で?」


「当然でしょ! だけど、お忍びだから仰々ぎょうぎょうしいお出迎えはしないようにね。粗相そそうだけしないようにお願いするわ」


 さらにデリルは、「今回みたいな粗相は、ね」


 とつけ加えた。


「大変失礼いたしました! 早速、王宮に戻り、諸々の手続きを進めさせていただきます」


 すっかり縮み上がった警備隊長がビシッと姿勢を正して最敬礼する。他の隊員たちもそれにならう。


「あっそ。よろしく」


 デリルは呆れた様子で手をひらひらさせた。






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【デリ豊シリーズ・過去作はこちら】 ※第3部からでも楽しめます!


◆第一部:目覚めし竜と勇者の末裔 https://kakuyomu.jp/works/16817330652185609155


◆第二部:復活の魔王と隻眼の魔導士 https://kakuyomu.jp/works/16818093083366171518

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