豊満熟魔女デリルと豊かな仲間たち~王都の悪夢と冥界の使者~

江良 双

第一章 パーティーは悪夢の始まり

第1話 王都政務管理局にて

「竣工記念パーティーをしましょう」


 突然デリルが言い出した。真っ赤なセミロングの髪と緋色の目をした肥ま……豊満な熟女デリル。これでも二十年前、勇者フィッツと共に魔王を討伐した魔女である。ここは王都の中心地、王公貴族の屋敷が立ち並ぶ一等地である。二十年以上記帳していなかった王都銀行の口座に莫大な預金が在ることを知ったデリルは、ぜいの限りを尽くした大邸宅を建てたのである。


 本来なら四世帯分の区画を使って建てられたデリル邸宅は、建設が始まった当初、王都グランドホテルの別館が建つんじゃないかと噂されるほどの大掛かりなものだった。


「竣工パーティーですか?」


 答えたのは金髪碧眼きんぱつへきがんの小柄な少年ネロである。森の中でデリルが住んでいた丸太小屋に迷い込み、そのままデリルの弟子になった。


「エリザもマリーもこの屋敷を見たら驚くわよ」


 デリルはいたずらっぽく笑った。エリザとマリーは、共に魔王を討伐した仲間である。当時は三人ともすらりとした長身美女だったが、フィッツと結婚したマリーは四度の出産を経てすっかり豊満熟女体型になり、女戦士であるエリザも寄る年波で筋肉を包み隠すようにたっぷりと脂肪を蓄えていた。


「あとはこれまでお世話になった人たちですね」


 ネロは浮かんだ名前を次々と招待客リストに書き込んでいく。リストが出来上がるにつれ、ネロの顔面が蒼白になっていく。


「どうしたの、ネロくん? 真っ青な顔をして」


 デリルは不思議そうに尋ねた。


「先生、僕たちってこんなに凄い人たちと関わってきたんですね……」


 魔王討伐メンバー、大聖堂の聖女様、伝説の臥竜、勇者の末裔に帝都の現皇帝などなど、錚々そうそうたるメンバーが名を連ねているのだ。ネロがリストを作りながら恐ろしくなってしまったのも無理はない。


「そういえばどこかに届け出がいるのかしら?」


 デリルはネロに聞くという風でもなくボソッと呟いた。「明日、王都政務管理局に行って聞いてみましょう」


「ペディさんも呼ぶんですよね? 王都の方は良いんですか?」


 ネロが言ったペディさんとは帝都の現皇帝ペディウスの事である。本来なら一般人のネロがさん付けで呼べるような人物ではないが、帝都の窮地を救ったデリルとその仲間たちは『皇帝の客人』という、帝都ではかなり高い位を得ていた。


「うーん、確かに王都に建てた屋敷の竣工パーティーに帝都の皇帝だけ呼ぶのは良くないかもね」


 デリルはそう言ったが、できれば王族とは会わずに済ませたかった。魔王討伐後、少年だった現国王の家庭教師の依頼を断り、隠とん生活に入ったからである。王族の頼みを断ったのだから快く思われていないのは間違いない。「ま、形だけでも招待はしておきましょう」


 このデリルの決断がのちにとんでもない大騒動を呼び起こす事になる。


 翌日、デリルはネロと共に王都政務管理局を訪ねた。諸々の公的な手続きをしている施設である。まずは入り口の正面にある総合受付に向かうと、テキパキと動いている受付の女性と目が合う。


「おはようございます。本日はどのようなご要件でしょうか?」


 椅子を勧められ、デリルとネロが腰掛ける。


「新しい家を建てたので人を呼んでお祝いパーティーをしようと思ってね」


 デリルは要件を切り出す。


「それはおめでとうございます」


 受付の女性は丁寧に頭を下げた。


「王都の外からも人を呼ぶから何か手続きが必要かと思って聞きに来たの」


「そうですか。日時と来訪者の名前をこちらの申請書類に記入して下さい」


 女性は書類を引き出しから出してデリルに向かって差し出した。


「そんなのでいいの? じゃあ来る人が分かったら書き込んで持ってくるわ」


 デリルは書類を手に取ってそう言った。「あっ、そうだ。王様にも一声掛けようと思うんだけど……」


「どう言う事でしょうか?」


 受付の女性は怪訝けげんな表情でデリルを見た。


「色んな人を呼ぶから、王様にも一応言っておかないと角が立つでしょ?」


 デリルが説明するがますます不思議そうに受付の女性はデリルとネロを見る。


「都民が新築祝いのパーティーを開くのに王様に声を掛けると言う話は聞いたことがありませんが……」


「誘わずに済むならそれでいいんだけど、後からごちゃごちゃ言われたくないのよ」


 デリルが露骨に顔をしかめると、


「それはあまりにも不敬な発言ですよ」


 受付の女性はデリルにキツい視線を向けた。


「あら、ごめんなさい。王様の事は小さい頃から知ってるもんだから、つい……」


 デリルは素直に謝った。普通の感覚で言えば受付の女性が正しい。下手をすれば反乱分子として投獄されかねないほどデリルの発言は軽率だった。


「都民から王様への連絡方法はありません。王宮への申請書類をお渡ししますのでそのまま王宮へお持ちください」


 受付の女性はチラッとデリルの背後を見る。気付けば何人か並んでいる。


「それじゃ、申請書類の方はまた持ってくるわ」


 デリルとネロは席を立った。二人は後ろのお婆さんに軽く会釈をしてそのまま政務管理局を出た。


「ダメですよ、先生。あんな言い方したら捕まっちゃいますよ」


 ネロがたしなめる。デリルは後頭部に片手を添えて恥ずかしげな笑みを浮かべた。






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【デリ豊シリーズ・過去作はこちら】 ※第3部からでも楽しめます!


◆第一部:目覚めし竜と勇者の末裔 https://kakuyomu.jp/works/16817330652185609155


◆第二部:復活の魔王と隻眼の魔導士 https://kakuyomu.jp/works/16818093083366171518

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