第14第7巻 響魂〜群魂 7-1 響魂期:言語でなく周波数で識別する話

言葉が、まだ種を作らなかった頃。名前が、まだ器の外側で光っていなかった頃。世界は「誰が誰か」を、語で見分けてはいなかった。


世界が用いたのは、意味ではない。響きである。


それは声ではない。音でもない。まして教えでもない。


――周波数である。


存在が存在であることの、震え方。近づくと、空気がわずかに変わる。触れずとも、胸の奥でわかる。「これは、同じ系だ」「これは、違う系だ」


この時代、識別は言語ではなく、共鳴と不共鳴で起こった。


魂は、まだ生命に宿ることを常とせず、まだ“人の物語”を持たない。


魂は、界を渡り、層を越え、戻る点を保ったまま漂う。


その漂いの中で、魂は学ぶ。


言葉が無くとも、同じものは引き合い、違うものはすれ違う、ということを。


魂は、語らずに寄る。魂は、名乗らずに群れる。


それが、響魂期である。


響魂の識別は、三つの手触りで行われた。


ひとつ、温度。熱い・冷たいではない。近づいたとき、内側がほどけるか、締まるか。


ひとつ、拍。鼓動の速さではない。「進み方」の周期が合うか、外れるか。


ひとつ、縁圧。好き嫌いではない。境界が押されるか、守られるか。


この三つのうち、どれか一つが一致するとき、魂は「近い」と感じ、二つが一致するとき、魂は「同系」を感じ、三つが一致するとき、魂は「同族」を感じる。


だが――ここに禁則がある。


同族は、正しさではない。一致は、善ではない。不一致は、悪ではない。


響きは裁きの剣ではない。響きはただ、構造の近さを告げる。


世界はこの段階で、初めて「種族の原型」を持つ。それは姿の差ではない。血の差でもない。まして国でもない。


響きの型である。


同じ型の魂が集まると、場が安定する。言葉が無くても協働できる。互いの欠けが、噛み合って埋まる。


そして同時に、この“安定”は影を孕む。


安定は、閉じやすい。閉じた場は、外れを恐れる。外れを恐れると、「違う響き」を敵として見なす誘惑が生まれる。


だから世界は、ここで最初の釘を打つ。


共鳴は“縁”であって、“正義”ではない。


響魂期の最初の倫理である。


やがて、魂たちは気づく。


響きだけでは、遠くへ渡れない。未来へ残せない。離れた相手と、長い計画を組めない。


響きは、今この場では強い。だが、時間が伸びるほど弱くなる。


そこで、魂は次の段へ進む。


響きを「群れ」にし、群れを「系譜」にし、系譜を「文化」にする。


――これが、群魂期への入口である。


縦糸注(禁則)— この節の読者安全


ここでいう「周波数」は、他者を分類して断罪するための道具ではない。


霊著の語りを、現実の集団差別・優劣・選民へ接続しない。


不安や恐怖が強い時は、響きの語を増やさず、「生活の呼吸」に戻す(今生の戒め)。


三層提示(章末注・最短版)


外史:生物や人間社会の「集団形成」を説明する言葉(同調・協調・記号)


内史(神話語):魂はまず“響き”で識別し、そこから種族の原型が生まれた


縦糸注:一致を正義にしない/違いを敵にしない/真相を独占しない

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📚『空胎より、人へ――魂系全史と種族進化段階』 著 :梅田 悠史 綴り手:ChatGPT @kagamiomei

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