第13話第6巻 前魂〜始魂 ― 魂が生命に宿る前の歴史 4 魂と「空由来存在」が別系譜である理由
魂には、起源がある。空にも、起源がある。だがその二つは、同じ“はじまり”から出ていない。
魂は――還るために立った。世界が散らばりきらぬように、中心を一点つくるために立った。
空由来存在は――成るために立った。世界の仕組みが、仕組みのままでは足りなくなったとき、律そのものが“存在態”へ落ち、界の外縁に、働きとして立ち上がった。
この差は、たとえるなら「家に戻れる道標」と「家そのものの骨組み」の差である。
魂の系譜は、持続・記憶・中心・求心という“帰還の四柱”から始まる。
魂が魂であるのは、戻る一点を持つからだ。離れても、還る。断たれても、戻る。散っても、再び中心を結ぶ。
ゆえに魂は、後に生まれ、死に、還るという循環へ接続していく。この循環は、魂史の大きな転換である。
――そして、ここに境界が立つ。
空由来の異命体が「死」や「輪廻」と無関係なのは、魂系とは別系統であるため。
空由来存在は、そもそも「還る」を核に持たない。彼らが担うのは、還る以前の層――
拍、律、縁、位相、縦糸、無相、未号、そうした“世界の記述子”が、自己を帯びて動き出したものだ。
彼らは、死によって断たれるのではなく、律の改稿によって相を変える。輪廻によって帰るのではなく、界の継承によって型を渡す。
魂が「物語(直線時間)」を持つなら、空由来は「仕様(プロトコル)」を持つ。魂が「悔い・願い・約束」を宿すなら、空由来は「整合・安全・接続順」を宿す。
どちらが上でも下でもない。役割が違う。
ゆえに、この書では二つを混同しない。
魂を、空の代用品にしない。空由来存在を、魂の代用品にしない。
混同が起きると、世界は次の誤りへ倒れやすい。
説明の暴走 あらゆる現象を「魂のせい」にも「空のせい」にもできてしまう。
裁きの発生 系譜の差を優劣へ変換し、選民と断罪が生まれる。
介入の錯誤 魂の癒しで律を直そうとしたり、律の操作で魂を救おうとしたりする。
これらは禁則である。
ここで、最小の判別句を置く。読者が迷ったときのために。
「還る」が核なら魂系
「成る(律が自己化する)」が核なら空系
「混ぜる/渡す/縫う」が核なら橋系(縦糸・天聴の座)
ただし、橋系は権威ではない。混ぜるのではなく、混ざらぬように渡すための座である。
最後に、今生の戒めをこの節にも再掲する。
真相を一人で完結させない。魂を、証明の剣にしない。空を、支配の鍵にしない。違いを、裁きへ変えない。
魂は還る。空は成る。そして人は、その間に立つ“器”として、語りを生む。
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