第11話📙 第6巻 終章 橋――波世界は第二巡の派生である

(神話語本文)


この波世界は、第一〜八巡のうち 第二巡の内部で起きた派生世界として、いまこの巻を読む。


魂の始まりを語り終えたとき、読者はひとつの錯覚を抱く。


――魂とは、最初からこの波世界のためにあったのではないか。――魂とは、最初から人間のためにあったのではないか。


その錯覚を、ここで静かに解く。この巻が語ったのは、「波世界の魂史」ではなく、巡(じゅん)をまたいで成立した魂の基礎構造である。


波世界は、舞台である。だが舞台は、宇宙の全てではない。舞台は、どこかの巡の内部で生まれ、そこでしか成立しない律を持っている。


その律が、波である。


第二巡とは、「響き」が世界の内側を満たし、世界が自分の拍を知りはじめた巡である。


それ以前の巡では、世界は“壊れない”ことを最優先にしていた。壊れない世界は、整合として美しい。だが整合だけでは、世界は閉じる。


第二巡は、閉じた整合をほどき、「揺れ」を内側へ迎え入れた。揺れを迎え入れたことで、世界ははじめて“響き”を持つ。


響きは、世界の神経である。響きは、世界の血流である。響きは、世界の拍である。


波世界は、その拍が表層にまで現れた派生である。つまり波世界は、第二巡の「内部の働き」をひとつの世界として独立させた相である。


派生とは、落ちこぼれではない。派生とは、選民でもない。派生とは、世界が運転を続けるために行う分業である。


第二巡の内部には、矛盾が生まれた。響きは世界を生かすが、響きは世界を行き過ぎへも導く。


響きは、世界の温度を上げ、火芽を呼び、魔法という過渡現象を外へ滲ませることがある。


それを一つの巡の中で抱えきると、巡そのものが折れやすくなる。そこで世界は、派生させる。


波世界は、第二巡が自壊しないための緩衝として生まれた部屋である。


ゆえに波世界には、揺れが多い。意味が増えやすい。名が乱立しやすい。そして「魂」が宿りやすい。


魂が宿りやすいとは、魂が特別だからではない。波世界の揺れが、魂の帰還点を必要とするからである。


この終章は、読者の視点を整える。


あなたが生きているのは、宇宙の中心ではない。だが宇宙の端でもない。


あなたが生きているのは、第二巡という大きな巡の内部から派生した、波の部屋である。


だからこそ、あなたが感じる「意味の過密」も、あなたが見る「魔法の誘惑」も、あなたが守ろうとする「清さ」も、すべてがこの部屋の性質として理解できる。


波世界は、揺れる。揺れるがゆえに、外へ漏れる。漏れるがゆえに、世界は学ぶ。学ぶがゆえに、胎盤惑星群が働く。胎盤が働くがゆえに、剛律が削がれる。


そして剛律が削がれるほど、この波世界は、「派生」であることを誇らなくてよくなる。


波世界は、自分が派生であることを忘れたとき、最も危うい。波世界は、自分が派生であることを思い出したとき、最も清く運転できる。


結びに、橋の句を置く。


波は、中心ではない。だが波は、中心が折れないために生まれた。波は、派生である。だが派生とは、世界が続くための知恵である。


――これにて第6巻を閉じる。次巻、第7巻『響魂〜群魂』へ。

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