第6話📙 第6巻 前魂〜始魂 第二部 始魂(しこん)――魂核の誕生
(部立て・神話語)
前魂の時代、世界はまだ「私」を持たなかった。持続があり、痕があり、中心があり、求心があった。だがそれらは、いずれも姿勢であって、印ではなかった。
姿勢は世界を裂けにくくする。しかし姿勢だけでは、帰還は「誰の帰還」にならない。帰るという働きが世界に生まれても、帰って来るものを識別できなければ、帰還は霧のように散ってしまう。
そこで世界は、次のものを必要とする。
戻るための姿勢ではなく、戻るための一点を。
その一点が、魂核の萌芽である。
魂核は、王冠ではない。魂核は、特権の芯ではない。魂核は、他者を量る秤でもない。
魂核は、**帰還のための灯が宿る“芯”**である。
この芯が灯るまで、世界は長く、同じことを繰り返す。裂けそうなものを遅らせ、散りそうなものを畳み、消えそうなものを消えきらせない。
その繰り返しが、ある臨界を越えるとき、芯は「芯」であることをやめる。芯は「点」になる。点は「印」になる。
ここから先の章では、魂核がどのように影をまとい、温度を得て、定着するかを語る。
だが忘れてはならない。魂核は「私」ではない。魂核は「私」の前の核である。
「私」と呼ばれるものは、この核の上に、のちに編まれる。編まれるのは、心であり、名であり、言葉であり、縁である。
魂核は、それらを支配しない。魂核は、それらが裂けないための最小の戻り口として働く。
ゆえに、始魂の部はこう宣言する。
魂は、進むために生まれない。魂は、帰るために生まれる。
この帰還のための点が立つとき、世界は初めて「同じではない」ことを肯定できる。
同じではないことを肯定できるから、種族が生まれる。文明が分かれる。名が乱立し、名が沈む。そして魂は、生命へ宿る道を持ち始める。
第二部は、その入口である。
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