最終話 死後の世界を見てきた太地
よく晴れた日曜日の朝、エジソンは居間の絨毯の上でもちもちとウェットフードを食べ、朝香は焼いたパンと目玉焼きを美味しくいただいている。と、そこへ、死霊のような顔つきで太地が起きてくる。青ざめた顔はなかなかただ事ではなく、朝香は声をかける。
「おはよう、どうしたの? なんか怖い夢でも見たの?」
「おはよう、う、うん、全く酷い夢を見たよ、いや、夢とは思えない、現実だった気がする」と言いながら洗面所へ消えてゆき、顔を洗って歯を磨いて戻ってくる。そしてのそりとテーブルにつく。朝香に入れてもらった熱いコーヒーをブラックのまま飲む。
「あらあなた、砂糖入れないの?」
「うん、そうだね」と言いながら食卓の塩の瓶を取って振りかける。おもろ、と思った朝香は何も言わないで続きを話させる。エジソンがひらりと朝香の膝に飛び乗る。
「それで、どんな夢を見たの?」
太地は髪をぐしゃぐしゃした後、思い出しながら話しはじめた。
「……最初は普通に道を歩いてた。キリンのように首が長くなるのと、ゾウのように鼻が長くなるのはどっちが便利だろうか、とか考えてたら、車に轢かれたんだよ。すごく痛かった。それで、目の前が真っ暗になってね、次はね、すごくきれいなお花畑があるところに出た。で、目の前には澄んだ川が流れてたんだ。いい場所だなぁ、とか思って見渡していると、川の向こうから誰かが手招きしているんだ。橋があるから渡ってみたら、そこには死んだお爺ちゃんとお婆ちゃんがいたんだよ。後小さい時飼ってた柴犬のダイもいた。思わず、おじいちゃん! と呼んだら、いきなり叩かれた。お婆ちゃんにはつねられた。ええっ、なんで、と思ったら、毎日毎日愚にもつかぬことばかり考えてないでしっかり仕事をしろ! と爺ちゃんに怒られ、婆ちゃんには、奥さんをもっと大事にしなさい、このうつけもの、と言われたよ。で、最後にダイに足におしっこひっかけられた。それで急に場所が変わった。薄暗い砂利道みたいなところで、何か大きな声が聞こえたと思ったら、真っ赤な顔の鬼が金棒振り回してこっちに走ってくるんだ。うわぁと思って必死に逃げたら、光あふれる扉みたいなのがあって、そこに飛び込んだら目が覚めたんだよ……」
朝香とエジソンは、しばらく太地を見つめたあと、思わず、ぷっと笑ってしまった。
「お説教されちゃったんだ」
「それより鬼が怖かった。本当に殺されるかと思った」
「鬼が何を意味するのか考えてみたらいいね」
と、朝香は立ち上がりエジソンをソファーに置いて、洗濯ものを取り込みにベランダに出た。すると、太地がやってきて一緒に取り込みはじめる。そして、
「人はパンのみに生きるにあらず、だけど……」とつぶやいた後、
「一緒にいる人を思いやる必要はあるんだ、と思う」
と言いながら洗濯物を入れた籠を胸に抱えて部屋へ入っていく。なんか、成長したみたい。お爺様、お婆様、ありがとうございます。と、朝香は心の中でお礼を言った。太地がふらふらと進んでいると、足元をエジソンが駆け抜ける。うわぁ、危ない、と体勢を崩した太地、手をつくために籠を前方に放り投げ、中身は居間に巻き散らされた。
ま、ちょっとずつだね。朝香は腰に手を当てながら、ソファにかかった太地のトランクスを手に取った。(終わり)
美作家の奇天烈な日常 平山文人 @fumito_hirayama
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