第4話 月の裏側の途轍もない秘密
このところ毎日太地は毎晩遅くまでベランダで天体望遠鏡を覗き込む日々を送っている。朝香は何か知らないけど熱心な事、と何も聞かないで放っておいたが、一週間ほど経った夜、食事を終えた後またベランダに出ようとするので、声をかけてみた。
「あなた、毎日毎日何を見てらっしゃるの」
「む、遂にきみも興味を持ったか。ならば教えて進ぜよう。僕はね、月の裏側を観測しているんだよ」
「月の裏側。何のために?」
「月の裏側に住む宇宙人を発見するためだよ」
朝香は道端に捨てられたチリ紙を見る目で夫を見つめた後、見つかるんですか、と抑揚のない声で尋ねた。
「もちろんだ。彼らは時々地球に来ているからね」
「月って確かいつも同じ面を地球に向けてるんじゃなかったですっけ」
「む、その通りだが、僕は際をひたすら見ているんだよ」
「UFOなり見つけたとして、それからどうするんです」
「動画や写真を撮るんだ。ほれ」
と、手元に準備したデジカメを見せてくるが、どうみてもそこらの電化製品店に置いてある普通のものだ。
「あの……それで遥か彼方の月の宇宙船が撮影出来るんですか?」太地はそれを聞いてしばらく固まった。が、やがて
「なに、月から地球に来る途中なら撮れるだろうよ。NASAは何かを隠しているから、それを俺が暴くのだ」
「よく分からないけど、宇宙人って素直に暴かれるのを手をこまねいて見てるものなの? 家に浚いに来たりしないの?」
「えっ……来るのかな」
「知らんけど、正体を隠してるならそれぐらいの事はするんじゃないの」
それを聞いた太地は突如として天体望遠鏡をしまいだす。そしてすごい勢いでベランダの窓を閉めて、カーテンを引っ張った。
「そうだ、あいつらはキャトルミューティレーションと言って牛の内臓だけ取ったりするんだった。あと、畑にミステリーサークル書いたり、インプラントしたり。くわばらくばら。君子危うきに近寄らず。さ、風呂にでも入るか」
呆れ顔の朝香を尻目に太地は天体望遠鏡を抱えて去っていく。朝香はテレビをつけてポテトチップスを食べはじめた。
太地は服を脱ぎながら、内心怯えていた。もしかして今日までの行動が宇宙人に見られていたら、と思うとぞっとした。なんでそういう事を思いつかなかったんだ、俺のバカ馬鹿、とか思いながら浴室に入る時、溝に足の指をひっかけて、頭から浴槽に飛び込む。ぶぱぁ、と顔を出して、鼻からお湯を垂れ流して、これも宇宙人の攻撃か、と、一人でますます怯えるのだった。
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