第2話 宇宙の果ての果てにはてな
今日も今日とて美作夫婦が食卓で向かい合って天丼を食べている。窓の外はすっかり暗く、カラスがカァークアーと鳴いている。
「どう美味しいでしょう、ちゃんと家で天ぷらを揚げたのよ」
「うむ実にうまい。旨いけど、今天ぷらを食べながらとんでもないことを思いついた」
「まず天丼を食べてから話せ」
太地は言われた通りどんぶりを空にしてからおもむろに話しはじめる。
「きみ、宇宙には果てはあると思う?」
「さぁ、あるんじゃないの」
「じゃあ、果ての向こうには何があると思う?」
「……考えたこともないけど、そういわれたら不思議ね。何があるの?」
「その話の前に、宇宙の始まりの話をしよう。ビッグバンって聞いたことあるだろ?」
「うん、ある。アインシュタインだっけ、ある時ある場所から一気に宇宙が産まれたってやつでしょ」
「その通り。That‘s right. で、問題はその前だよ。その前って、何があったの?」
「知らんがな」
「それなんだよ。宇宙の果てには、宇宙誕生以前の何かがあるんだよ、空間か、時間か、意識か、俺は意識だと思う」
「誰の意識なの?」
「俺の意識」
「お風呂沸かしてくるね」
と、朝香は表情一つ変えず椅子から立ち上がる。うぬぬ、相変わらず俺の世紀の悟りを理解せぬ痴れ者よ、と妻の背中を見ながら太地は憤慨した。はじめに意識があった。意識が、宇宙を、世界を創造した。その意識は全てを司り、全てと繋がっている。むむ、素晴らしい、核心に近づいている。宗教的に言えば梵我一如だ。つまり意識こそが全てであり、我思う故に我あり、だ。大きく腕を上げた太地の横を無表情で朝香が通りすぎ、居間テーブルの上のノートパソコンを開く。そんな事はどうでもいい、この真理を皆に伝えねば。
「ところであなた、なんか連絡網を回さねばとか言ってなかったっけ?」
「ああ思い出した。遠足の日が変更になったんだ。メール打たなきゃ」
太地は仕事部屋の机に座ってカタカタキーボードを打ちながら、しかし頭の中は世紀の大発見で一杯になっていたので、辿り着いた大真理を打ち込んでしまった。彼が担任である5年4組の生徒たちは、意識が宇宙を産み、森羅万象全て宇宙も意識、つまり君も意識である、などという内容の怪文書を受信することになったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます