第1章 ミレンデル村編 第二話「異世界?」
目が覚めた。
見慣れない天井ではあるが、病院では無さそうだ。
どこだここは?
体はなんだか言うことをきかない。
誰だこいつは?
「صباح الخير يا ناريا」
よくわからない言葉で話しかけてきた。
日本語か?
いや、違うな。
日本じゃなのか?
ここはどこだ?
俺の体を治すために海外に連れて来られたとか?
この茶髪をした美しい女の人は誰なんだ?
とりあえず俺に言ってるみたいだから、何か答えるか。
『すみません。ここはどこですか。』
こう聞こう。
英語でいいかな?
「あうあうあー。」
なんや?
上手く舌が回らへん。
そんなに長く寝てたんか?
植物状態やったとか?
やとしても、口がおかしくなったりすんのか?
まさか、後遺症とか?
周りを見ると、こちらを微笑むように見る男。
猫耳?をつけた男。
いや、きめーな。
その隣に小さく見えた鏡には俺では無く、生まれたてのような幼い赤子が映っている。
周りを撫でるように見る。
どこにも、赤子なんていない。
そんなことより、俺はどこにいるんだ。
死んだから鏡に映らんとか?
死んだらこんな感じなんか?
いや、さっき喋れたには喋れたで?
言葉にはならなかったけど。
まさか、さっきの赤子が俺?
いや、そんなわけ。
鏡に手を振ってみる。
あの子供が手をこちらに向けて振っている。
どうやら本当に俺らしい。
なんで俺は赤ちゃんになっているんだ?
「لا تبكين، أليس كذلك؟」
「صحيح」
「إنه جيد لأنه مريح」
「ذلك صحيح أيضًا. نارية-تشان لطيفة جدًا」
「بالفعل، ناريا-تشان.」
三人が何か会話をしている。
母親?が手を伸ばしてくる。
軽々と持ち上げられる。
ほっぺたに柔らかい感触を感じる。
なんとあの美女がキスをしているではないか。
赤ちゃんになってるのだから当たり前かも知れないが変な感じだ。
キスされることも、誰かに持ち上げられることもないからな。
いや、玲にはキスはされるか。
ほっぺたにじゃないけど。
玲をお姫様抱っこくらいすれば良かった。
ってなんの話だ。
――
おそらくあれから一ヶ月ぐらいが経った。
俺はこの世界に生まれ変わったらしい。
転生というやつか。
記憶があるんはなんでやろうか。
まぁでもあって困るものでもんじゃないからええやろ。
それに、いわゆる異世界転生か。
妄想上のものやと思っていたけど、ほんまに起こるなんてな。
オラ、ワクワクすっぞ。
なんつって。
俺は高階浩也ではなく『ナーリア』になった。
俺の体は活気に満ち溢れていた。
赤ん坊やからやろか。
生まれて初めて見たあの茶髪の美女が俺の母親らしい。
猫耳のついていない金髪が父親。
ついているのが執事みたいな感じだろうか。
俺の親父はゴリマッチョだな。
そんなことよりも大切なことがある。
『俺は今、羞恥プレイを受けている。』
丸裸にされ、けつを拭かれている。
なんてことをしやがるんだ。
「くっ、殺せ。」
とでも言ってしまいそうだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
まぁ、してくれないのも困るんだが。
汚いから。
そう、俺のう○こを拭かれているのだ。
転生は受け入れることにした俺だが、いまだに受け入れられないことがある。
男としていや、漢としてのアイデンティティが失われたのだ。
赤ん坊だから小さくなったのは覚悟していた。
あのままこられたら身体と不釣り合いすぎて、キモすぎるからな。
だが、小さくなっただけのはずの俺のバナナはそこにはなかった。
あったのは、いやなかったのだが、美しい割れ目だけがそこにあった。
もちろん毛はなかった。
そう、俺は、いや、わざと言おう、
『私』は女になった。
今もなお、俺の目はバナナの幻覚を見せてくる。
だが、目を開くとやっぱりないのだ。
男どもが見れば、下唇を噛み切りたくなるような嫉妬を覚えるだろう。
俺に偏頗感を感じるやろう。
いわゆる女体化やからな。
なんやったら、美女の巨乳を毎日吸いながら揉んでいる。
何とも疎ましいことだろう。
なんと素晴らしいことだろうか。
でも、玲のが良かったな。
反応が無いのはなんだか寂しい。
女な声で鳴いてほしいな。
そう心では思うものの、女になったからか、母親だからか、幼いからかは知らんが、全くと言っていいほど興奮しなかった。
もちろん勃つことなどない。
勃つものがないからな。
はぁ…。
男としての方が生きやすかったんじゃあなかろうか。
男尊女卑の世界だったらどうしよう。
女尊男卑なんてねえやろうしな…。
――
おそらく半年が経ち、雪が降るようになった。
そして、少しずつではあるが言葉も分かるようになってきた。
英語とかフランス語とか外国語は得意ではなかった。
こんなに覚えが早いのは新言語に埋もれた生活をしているからなのか。
留学ってのはやっぱりちゃんと効果があるんやな。
それとも、これが母国語になるからなのだろうか。
赤ちゃんだからという線もある。
まぁ何にせよ悪いことではない。
これが出来なきゃたぶんこれから生きてはいけない。
本当にこの世界で生きていけるのだろうか。
俺はどうなっていくんだろうか。
――
窓の外には長閑とした雰囲気の漂う白銀の世界が広がっている。
生まれたばかりの時はW杯の決勝のピッチのようだった天鵞絨ビロードの草原は雪が積もり、色味を感じさせない世界を創り出している。
おそらくここは地球ではないだろう。
地球だとしたらモンゴルとかステップ気候だかの地域に見えるけど、雪なんか降るんやろか。
それに少し遠くに海も見えた。
確かあんまり海が近くなる気候じゃなかったはずだ。
何よりも、月のような衛星が二つあった。
ここは地球じゃない。
つまり、日本はここにはおそらくない。
生活水準はどれほど低いだろうか。
この家がただ貧乏なのかは知らんが電気を使っているのも見たことがない。
カンテラやろうそく、ランタン、暖炉なんかが唯一の灯りだ。
電球なんてものはない。
いや、唯四か。
半年が経って俺は移動が可能になった。
立ってではなくハイハイやけどな。
移動ができるというのは何と自由なんやろう。
俺はどこかによじ登ったり、ゴロゴロしたりして日々を過ごした。
よくどこかへ行っては母さんたちを困らした。
そんなある日、休日だった父さんは母さんか、あの執事かが作った昼飯を食うとどこかへ行った。
俺も巨乳を吸えない悲しさを覚えながら離乳食を食べ終わる。
そして、いつものように家を徘徊していたが、一周したら飽きた。
白銀の世界に何かが映ることはないものかと外を見る。
すぐそこの庭に目を送りギョッとする。
父さんが剣を振っているのが見えたからだ。
なんで振っているんだ。
まさか中学生なのか?
いや、どう見ても30ぐらいのおっさんだぞ俺の親父は。
というか、あの剣本物か?
刃が落とされていないような気がする。
こちら見た。
「ナーリア、父さんカッコいいだろ。」
自慢げに言う。
厨二病のくせに。
泣いて困らしてやる。
母さんに怒られろ。
気合いを入れて泣く。
大きな泣き声をあげて泣く。
『空振りした。無駄なものすら多く切ってきたのに。この俺の斬鉄剣で。』
なんて考えていそうな表情で俺を見ながら狼狽した。
ちなみに父さんが持っていたのは刀ではなかった。
いわゆる剣。
西洋の両刃の剣だ。
母さんが泣き声を聞き駆けつける。
俺は父さんを指すように指を向ける。
やり過ぎやったかな。
まぁいいや。
厨二病なんが悪いんや。
泣き疲れた。
母さんが父さんを叱る声を聞きながら眠った。
「あなた、何をしていらしたのですか?」
「いや…。ちょっと自慢を…。」
「ナーリアちゃんが怖がっているじゃありませんか。」
「ナーリアちゃん、大丈夫ですわよ。」
――
お姉ちゃんと父さんが庭にいる。
父さんがなにかを言ったかと思えば、空気が歪んだ。
その直後父さんの伸ばした手から火が飛び出した。
何が起こった。
父さんの手に火炎放射器でもついてんのか?
いや、そんなわけが。
そんな科学力があるわけが。
火炎放射器があったとして、火炎放射器なんてもんこんな辺鄙なところに必要か?
あっていいんか?
もしあったとして手に内蔵されるようなもんか?
する意味なんてあんのか?
父さんが人差し指を立ててクルクルと回転させる。
掌から発射された炎は人差し指に集まり、釣られて渦を巻くように動く。
それが消えると父さんがお姉ちゃんにまた、何かを言った。
お姉ちゃんが手を伸ばす。
深呼吸をして、口を動かした。
火の塊のようなものが飛び出す。
お姉ちゃんは、ルッ○に勝った時のル○ィのような表情を浮かべ、その場にへたり込んだ。
体力が燃え尽きたお姉ちゃんは数分間、動こうとすらしない。
それに釣られてか、この燃費の悪い俺の体も疲労感で埋まった。
結局、あの炎はなんだったんだろうか。
あとで甘えるようにして、お姉ちゃんの手を触ったけど、とても柔らかく、暖かい安心する手だった。
父さんのは小さく柔らかいマメが付いてた。
――
俺たちが寝るとき、いつもルスヴァフさんが歌ってくれる。
俺に母さんの声を毎日思い出させてくれる。
俺や琴姉がまだ今の俺たちぐらいだったとき、いつも母さんは子守唄を歌ってくれた。
いつも最後まで聞くことはできなかった。
いつも途中で寝てしまっていた。
ただ、今俺は寝たふりをしながら、この執事が歌う歌を聴いている。
俺の隣のベッドには大の字になって寝ている俺の姉がいる。
『スザーナ』というらしい。
父さんや母さん、ルスヴァフさんにそう呼ばれていた。
この人が歌う歌を聴くたび体の疲れが回復していった。
そして、さまざまな言葉や情報を知れた。
文脈から言葉を推測する。
ここが京大の見せ所だ。
なんつって。
無限の言葉から合う言葉を手探りで探っていく。
沼の中に手を突っ込み、掻き回して宝を探す。
そうやって抜け落ちた言葉はどんどん埋まっていった。
姉か。
今頃、琴姉はどうしているんだろうか。
18で家を出ていったきり、どこにいるかもわからない。
母さんたちが死んだとき、LIMEはした。
それに既読はついたから生きてはいると思う。
あとで読み返したら乱雑な文ではあったから、伝わったかは分からないが。
伝わったとは思う。
京大に合格したことも言った。
これにも返信はなかった。
だけど、なんだか画面が暖色に包まれていたような気がする。
俺が死んでいるとして、葬儀ってどうなるんだっけ。
親はもういない。
親族は琴姉だけだ。
でも、琴姉は消息不明だ。
まぁ本当に死んでたらもう俺には関係のない事なのかもしれんが。
死ぬ直前、
「琴音に連絡して欲しい。携帯にLIMEは入ってる。」
と玲には言ったがどうなったんだろうか。
琴姉に連絡はできたのだろうか。
これが夢ならこんなこと考えなくてもいいのに。
なんでつねったりしたら痛いのだろう。
夢ならいいのに…。
思えば、この世界に来て初めてちゃんと地球のことを考えた。
玲や智、雅治には悪いことをしたな。
そういえば智と雅治はちゃんと助かっただろうか。
無事ならいいが。
二人なら俺のタックルぐらいは許してくれるよな。
琴姉にも悪いことをしたかも知れない。
もうあの世界に彼女の家族はいない。
俺だけだったんだ。
確かに琴姉は父さんたちに絶交をして、出ていった。
でも、俺のLIMEには既読だけはつけてくれた。
どう思っているかも分からないが、少しは気にしていたはずだ。
誰だお葬式はお別れの儀式だとか言ったのは。
そんなこと、ないじゃないか。
お別れぐらいしたかったなあ。
アンアンという、女の声で現実に引き戻された。
俺が地球のことを考えている間に、ルスヴァフさんは部屋から出ていったらしい。
そこに姿はない。
そして、父さんと母さんが三人目作成を始めたらしい。
部屋は違うが、なんとなく聞こえてくるんだよ。
ルスヴァフさんは興奮したりしないんだろうか。
獣族は通族に興奮しないとかか?
そういえばあの耳はなんなんだろう。
ルスヴァフさんは獣族と呼ばれる種族で、狼の耳と尻尾が生えている。
俺や母さんたちのような普通の人間は通族と呼ばれるらしい。
それ以外にも、羽の生えた鳥族や、よく分からないが混族というやつもいるらしい。
俺は本当に転生したんやろな。
この世界は夢ではないんだろうな。
どんなに思考しても飛ぶことはできないし、違う世界線の人とかが出てくることもない。
痛みもある。
俺は本当に死んだんだろう。
いや、別世界に『蘇った』そう思おう。
せっかく蘇ったんだから、何かをしよう。
まずはこの世界を知ることからだな。
まずは目標、いや『夢』を作ろう。
半年後、1歳になる時目標を作る。
これが最初の夢だ。
そしていずれ、本当の夢を探そう。
つまり『この人生の『夢』を見つけること。そして、叶えること。』
これが俺の、私の夢だ。
ここに誓おう。
もう二度と「夢がない」と言うことがないようにと。
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