夢なき転生者 〜空虚埋める旅に出る〜

@Kumano_neko

第0章地球編 第一話「プロローグ」

「おい、京大生様のお通りやぞ。」

「調子乗んなよ。」

「まぁ、事実やからな。」

「ダッル。」


この場には俺を含めて3人いる。

調子乗ってると言ったのが市原雅治いちはらまさはる

同調したのが片倉智かたくらさとし

そして俺、高階浩也たかしなこうや

いつものメンバーは一人を除いて揃った。


「あとは玲ぐらいやな。」

「ぐらいってなんやねん。」

「なんやろなぁ。」


玲と言うのは加賀玲かがれい、俺の彼女兼、俺らの中での紅一点?

いや、彼女あいつはそんなんじゃないか。

確かに一人だけ女だけど…。


「とりあえず座れよ。」

俺はおうとだけ返事をして、ソファに座る。

「当たり前やけど、二人とも顔変わったな。」

「まぁ、最後に集まったの2、いや、3年前か。」

「せやな、高一以来やな。」

「懐かしいな。」


チャイムが鳴る。

「玲様、登場!!」

『うぃー。』

「もうちょい触れろよ。寂しいやんけ。」

テキトーな挨拶を交わす。


俺と、智の二十歳組は酒を飲めたが、

玲と雅治はまだ十九なので全員やめといた。

みんなで飲み食いしながらいろんな話をした。


――


「俺、教師になろうかな。」


雅治が急に言った。

俺は瞠目する。

意表をつかれたが教師か。雅治がか。

頭の中でこいつに授業を教えられる。

何とも似合っている。

俺はどうだろう…。


「急だな、でもいいんじゃね?」

「お前がそんなこと言うなんてな。

三年もあれば人は変わるもんだな。」

「あんときは絶対思ってなかったろ。」

「そうかもな。」

「お前ら、何になんの?」

「私はー、できればイラストレーターになって、

配信者の立ち絵とか、サムネとか?作りたいなーって、感じかな。」

「俺は、ベンチャー作って頑張りたい。」


玲がなんの会社にするのかを聞いている。

彼らには夢がある。

俺はどうだろうか。

高校では頑張って京大には入ったけど、

特にやりたいこともない。

結局無難にサラリーマンとかどっかの会社の研究員にでもなるのだろうか。一応理系だし。


「浩也は?」

「なんもねーなぁ。

脳内ではいっつも色んな映画みらいの上映会がされてるけど、それを現実にしたいとは思えんのよなぁ。」


――


気づくと携帯の上部には23:35という文字が並んでいた。

友達とはいえ玲はどうするんだろ。

ここでは寝れんだろうし…。

いや、エロいことは考えてないぞ。

いや、考えていない。


単純に久々のどことなく知性を感じる?会話が楽しかった。

大学の友達よりこいつらとの話の方が興味深いオモロい


――


目が覚めた。

何時間寝たんだろう。

朝になっていた。

そういえばあのまま智の家で寝たんだっけ。


「おはよう。」

「うぉ、う、うん、おはよ。」


玲が覗き込んでくる。

こいつはここに泊まったんだろうか。

まぁ、別にいいか。

彼氏としてそんなに適当でいいのか?

まぁいいか。

そう考え、体を起こした。

キスをしたかったが二人が居る可能性を考え、

やめておいた。


横には死体かと思える二人が転がっていた。

直立不動で。いや、立ってはないか。

智のテントは張られている気もするが…。

まあいい。


「今、何時?」

「えっと。ほれ。」


玲は机にあった携帯を取り、こちらへ見せる。

7:12

なんとも微妙な時間に起きてしまった。


「お前、起きんの早ない?」

「そう?」

「あ、そういえば、明けましておめでとうございます。」

「あーそうか。あけおめ。」

「みんな多分暇だよな。初詣でも行くか。」

「でも、着替えないわ。」

「そっか、お前らないんか。」


ここは奈良。

俺は京都に住んでるから、小旅行の気分だ。

最悪、雅治は智のを借りればええんやろうけど。

玲は無理か。


「家帰って来たら?すぐ戻って来れるやん。

着いて行ったろか?」


玲は帰省して来ていて家はそう遠くない。

ここは智の実家で、雅治は実家住みだ。

ちなみに、智の親は正確にはここには住んでいない。

少し離れた所にある別荘に住んでいるらしい。


「そうしょっかな。着いてこんでええよ。」

「朝帰りってか。」

「おい、やとしたらなおさら連れて行かれへんな。」

「それに、年末年始は家族で過ごすもんやろ、普通。」


哀惜に満ちた表情を向けられる。

俺の親はもう居ない。高3の夏、事故で死んだ。

俺は責める相手もなく、やるせない気持ちで締め付けられた。

高校に行けば同情の目を浴び、教師からは来なくてもいいと言われた。

だが、毎日毎日、自分で飯を作り、勉強もした。

全ての心を無にして。

日夜を問わず勉強をしまくった。

京大に入れるぞと言われて入学した高校で、

その時まではぶっちゃけ無理だろなと思っていた。

でも、それ以外に俺を、高階浩也を証明する方法が思いつかなかった。


「そんな顔すんなよ。」

「……で、でも。」

「もう、ええねん。」

「…とりあえず行ってくる。」

「うぃ。」


玲は荷物を持つと、そそくさと出て行った。


――


「ん、んぁ。」


俺が携帯を弄っていると雅治が産声を上げた。


「お、起きたか。おはよ。」

「おう、おはよ。」

「あけおめ、は寝る前に言ったな。」

「せやな。」

「あれ、玲は?」

「一旦家帰るってさ。すぐ戻ってくるやろ。知らんけど。」

「そうか。」

「さっきあいつと話したけど、初詣にでも行こうぜ。」

「どこ行く?」


車はあるし、全員免許も持ってる。

とはいえ今日は元日。

人が多いのは好きじゃない。

田舎にでも行こうか。


「奈良は人ヤバそうやし、和歌山とか行ってみる?」


インターネットで調べてみる。

やっぱり人の多そうな神社ばかり見つかる。


「これは?」


携帯を見せられる。


静鴒寺せいれいじ

五穀豊穣、厄除け、招福、交通安全


地図を見ると車で約2時間24分と書いてある。


「ちょい遠いけどええんちゃう?」

「はいー、俺の勝ち。」

「なんやねん、それ。」


――


「ピロリン」LIMEが来た。

玲からか。


朝は家で食べることにした。

いつそっち行ったらいい?


「雅治、朝飯どうする?玲は家で食うって。」

「んー、とりま、俺も家行って来る。」

「おけ。何時集合にする?」


今は7時38分。

移動時間二時間半を考えると遅すぎるのは困るな。

どうしたものか。まぁテキトーでいいか。

よし、1時間後にしよう。


「8時半ぐらいにするか。

したら、11時過ぎには着くだろうし。」

「了解。じゃあ、いってくる。」


雅治は敬礼するのように額に手を当ててから、

鞄を持って部屋を出た。


――


玲にLIMEを送る。


飯食って、8時半にここ集合で。


どこに集まろうか。

熟慮しても答えは出ないだろう。

とりあえず智を起こそう。


「おい、起きろー。」


ペチペチと頬を叩く。

寝ぼけ目でこちらを見つめる。


「起きたな。よし、飯食おうぜ。」


テキトーに冷蔵庫から食べ物を拝借する。

もちろん、返したりはしない。


8時半に二人が戻ってくる。

そしたら車で初詣に行こう。


そう智に説明する。


「どこいくんだ?」

「えっと、和歌山にある、静鴒寺って言うお寺さん。

さっき雅治と決めたやつ。」


ああ、これかと言いつつ智は携帯を見ていた。


二人で飯を食いつつ、テレビをみる。

といってもテレビでは大したニュースもなく、

何とか新春スペシャルとかもまだ朝だからあんまない。

駅伝があるぐらいだ。


――


8:30になったらしい。

インターホンの音が部屋にこだまする。

玲が戻って来た。

雑談をしながら誰かさんを待つ。


「初詣って結局、どこいくの?」

「えっと静鴒寺ってやつ。」

「ほい、これ。」


智が携帯を差し出した。

ふーんと言いつつそれをスクロールする。


玲が来てから約5分また、インターホンが鳴った。


「よし、じゃあ行こう。」


そういって、智の車に乗り込む。

車に足をかけると、背中を引っ張られた。


「待て、待て。」

「じゃんけんしようぜ。」


何の話だろうか。

雅治はいつも大事なところが抜ける。


「…なんの?」

「運転手だよ。」


なるほど運転手の押し付け合いが始まるのか。

確かにやりたくない。

玲も苦笑いをしている。面倒だもんな。

ペーパードライバーはいないが全員それに近い。

何と魅力のある旅なのだろうか。

チビらない運転を頼みたい。


「はい、じゃあ、最初はグー、じゃんけん。」


俺はパーを選択。

他は、グー、パー、チョキ。あいこだ。

全員が己の手に擲命を込める。


「最初は、グー、じゃん、けん。」


グーが四つ並ぶ、もう一度。

心を込めて、いや、命をかけてこのじゃんけんに勝利する!


「最初は、グー、じゃん、けん。」


チョキ、チョキ、パー、チョキ。


パーを出したその手の主は、

俺だ。

せっかく命までかけたのに…。

心の中だけだけど。


――


俺たちは車に乗り込み、発進した。

何ともめんどくさい。

まぁ、後で交代するんだろうけど。

そう思いつつ助手席に乗る雅治の案内に従い、高速へ向かう。


「ねぇ、ねぇ、ドライバーさん。」

「なんやそのキショい喋り方。タクシーちゃうねんぞ。」

「京大ってどうなん?」「確かに」

「ん?どうって?」

「なんかあるやん。」

「なんかってなんやねん。

まあ、少なくともこんな感じで、脊髄で会話するなんてことはないな。」

「嫌味か。」

「え、あ、はい。」

「おい。」


こんな会話も懐かしい、追懐というやつだろうか。


会話を重ねながら車を走らせる。

雷駆の勢いで驀進する車、ノロノロ運転でイラつかせる車。

トンネルに入っては急に緑で溢れる視界。

なんでもないようでないかがある会話。

その全てが夢幻の喜びへと昇華された。


――


そんなに飛ばしてなかったこともあってか、着いたのは12時前。

今にも腹の虫が喚き出しそうだ。

不幸中の幸いか、昼メシの時間だから人はもうあまりいない。

俺たちはささっと御挨拶を済ませることにした。


「んじゃ、まぁ、パパッと行って、街のほう行って飯食おう。」

「はぁ、誰かさんが道間違えるから。」


助手席に乗っていた、その誰かさんは明後日の方を見ている。

そういえば結局ドライバーの交代もなかった。


こぢんまりとしたその寺は枯れ木と共に俺たちを迎えた。

少しの会話に従い並歩を進める。

間違っても壮大とはいえないような廃刹としたちんけな寺。

サバンナの木々を思わせる人影。

そして、無窮に続く会話、

その全てが風情を感じさせる。

時々、昼飯を考えつつ参拝する。

お賽銭を投げて、合掌し、特に願うこともないな。と思う。

最後に深くお辞儀をして、その場を離れる。

智と雅治が御挨拶をしているのを見て、何とも言えない、空白を覚えた。


腹の虫は泣き止んだのか、玲がおみくじを引こうと、言い出した。


「せっかく来たんだから。」

「ここ、寺だぞ?」


とはいえここは寺。

おみくじなんてあるのだろうか。

まして、そんなに大きい所でもないのに。


「え、ないの。」


子猫が鳴くような声で小さく言う。

なんて可愛いんだ。この小動物は。

そんなラブコメ的な展開が浮かんだが、現実はなんて凡俗なのだろうか。

低くはないがアニメ声でもない、普通の声で玲は言った。


「うん、まぁたぶんないな。知らんけど。」

「一応探してみよや。まだ、見てないとこもあるやろし。」


三人の腹は何かに埋められたらしい。

やっぱりなかった。

寺を一周歩いてみたが、おみくじらしきものを売っている所どころか、お守りすら売っていなかった。

まず売店らしきものが無かった。


――


何か足に引っかかりを感じた。

足には紐の解けた靴がはまっている。

俺はしゃがみ込み、解けた靴紐に手をかける。

三人はそれに気づいているのにも関わらず、歩みを止めない。

なんて、酷い奴らだ。

心の中で戯言を並べながら紐を結んだ。


あっ、ヤバい。

今結び終えた靴に己の神経を同化させ、力を込める。

メロスをも超えるような速度で前に進むことだけに全身の力を注ぐ。

少し後ろにいた玲の服を掴み、後ろへと腕を振るうように投げ飛ばす。

そして勢いそのままに男二人に悪質なタックルをかます。

どこかの大学のアメフト部のように。

これは俺は退場だな。赤いカードが出されるだろう。

その直後、俺の体はメキメキと悲鳴をあげ、宙空に飛んでいた。

俺の背中に羽は無く、綺麗な放物線を描き、体は道路へと打ち付けられた。

ものすごく鈍い音がする。

もはや痛みすら感じない。

今、死ぬのだろうか。

玲や二人はちゃんと助けられただろうか。

霞んでゆく視界には、俺に駆け寄る玲が見えた。

助かったらしい。

さっき、もう解けないようにと固く結んだ靴紐は、

俺の体に平行になるように倒れている。

おかしいなぁ…。ちゃんと結んだのに…。


――


運転手は代わり、智が運転をする。

何とも快適だ。

朝心配したようなことは無さそうだ。


「昼飯を食おう。」

「そろそろ一時やから空いてるやろ。」

「どこ行く?」

「誰か調べて。」


何とも他力本願な奴らだ。

まぁ俺もだが。


「これ、いいんじゃない?」


玲が携帯を見せてくる。


木陰の嬉灯うどん


うどん屋らしい。

とても美味しそうだ。

口コミには

『店長の作る天才なうどんが本当においしい。』

とか『ここのうどんを食べたら間違いなく他では食べられない』とか書いてある。

俺の口にうどんを溶かす海が広がった。

この店に向かって車を走らせる。

と言っても、数分で着く距離だ。

ただ駐車場がないらしい。

少し遠くのコンビニに止める。

歩いて行く。

なんでもない雑談を続けながら。


靴紐を結び終えると、並んで信号を渡る三人が見えた。

そして、今にもその三人を破壊してしまうバスが見えた。

視界に映った運転席では運転手が突っ伏している。

思考をする間も無く、ただ三人を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る