第2話「……副コミッティ?」

「はい! じゃあこれで今日はおしまいです!」


先生のよく通る元気な声が教室に響く。


「みなさーん、明日からは二年生の教材を配りますので、一年生の終業式に配られたプリントどおりの金額を封筒に入れて、持ってきてくださいね!

これから二年間、よろしくお願いします!」


その言葉を締めくくりに、LHRは終了した。


『きんこーん、かーん、こーん』


チャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気にほどける。

まるで合図でもあったかのように、生徒たちは一斉に動き出した。


すでに同じ匂いのする仲間同士で集まり、楽しそうに話し始める者。

一人でさっさと帰る者。

一年生の頃から固まっていたグループで、そのまま盛り上がる者。

まだよく知らない相手同士なのに、ノリだけで「遊び行こーぜ」と声をかけ合う者。


そんな多種多様な波が教室を埋め尽くす中で――

一方、私はというと……


「ぐー……Zzz……」


一人、堂々と寝ていた。




 

「……んがっ!? ……ここどこ?」


びくっと体を起こし、間の抜けた声が漏れる。


「あ、学校か……」


ぼんやりと周囲を見渡すと、そこには誰もいない教室。

シン、と静まり返った空間に、夕方の光が差し込み、舞い上がった埃がきらきらと漂っている。


「確か……係決めのところまでしか記憶ないんだよな……」


そう呟いた、そのとき。


『ペラ……ペラ……』


紙が擦れる音が、やけに大きく教室に響いた。


「!?」


反射的に振り返る。


「し、白峰さん……いるなら言ってよ……」


引きつった笑顔を浮かべながらそう言うと、視線の先――

窓際の壁に腰を下ろし、体育座りのまま本を読んでいる白峰さんの姿があった。


位置関係で言えば、私の席から椅子一個分ほど離れた、斜め後ろ。

完全に死角だった。


「あ、起きたの?」


白峰さんは本を閉じて、こちらを見る。


「よかったー。死んじゃったかと思ったじゃん」


「縁起でもないこと言わないで……」


「いや、だって全然起きないし」


軽い調子でそう言いながら、彼女は本を膝に置く。


「君が寝てたからなんだけどさ、係決め、勝手に決まっちゃってたよ?」


「え……あー、そうなんだ」


一瞬だけ嫌な予感がして、目を逸らす。


「まあでも、どうせテキトーなところに入れられたんでしょ?」


「副コミッティーだよ?」

※クラスをまとめる人の補佐

「……え?」


一拍遅れて、言葉が頭に届く。


「……副コミッティ?」


体が、ぴしっと固まった。


「む、無理だよ無理無理!!

私、図書委員とか掲示係とかしかやったことないんだってば!!」


「そんなこと言われても」


白峰さんは、はぁっと小さくため息をつく。


「寝てた自分が悪いんじゃん」


「それは……そうなんだけど……!」


頭を抱えながら、ぶつぶつと言葉が漏れる。


「どうしよ……どうしよ……

コミッティーの人たちと仲良くできるかな……

なんか急に緊張してきた……」


「あ、その点は大丈夫だよ」


白峰さんはさらっと言った。


「あと、行事とかの件で、リーダーと副リーダーは明日放課後、生徒会室集合だって」


「……あ、うん。わかった」


少しだけ落ち着いて、顔を上げる。


「それで、コミッティーの人って……誰なの?」


「んっ」


白峰さんは、両手で持っていた本を、すっと持ち上げた。

ちょうど、自分の顔を隠すように。


「え? なに、どうしたの?」


「んっ」


こちらの困惑した表情をうかがったかと思うと、

もう一度、同じ動作を繰り返す。


「……もしかして」


嫌な予感が、確信に変わる。


「白峰が……コミッティーなの?」


本がゆっくりと下ろされる。


「やっとわかってくれたわね」


にこっと、意味深な笑み。


「よろしくね、副コミッティさん」


「……えぇ……」


頭を抱えながら、私は小さくうめいた。


――二年生、初日。

どうやら、思っていたよりずっと騒がしい一年になりそうだった。 

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