純然たる「パシリ」の爆誕である! さん!

ブワッと湿度を含んだ風が僕にぶつかり、光もぶつかり、苦しいほどに胸が高鳴る。

ーすごい!!めっちゃ綺麗な湖だ!!


『とう!!ドボンッ!!』

べジップたちは勇ましい雄叫びをあげ、雄大な湖へと飛び込んでいく。

轟音と共に空へと舞った、小さき水飛沫の一つ一つが、その身に陽光を宿してキラキラ輝く。

奴らに轢かれないよう巨木に身を隠し、はあはあ呼吸を繰り返している口角が、次第に大きく歪んでいった。

僕の心は、形容できない喜びで溢れていたのだ。

 ーそしてしばらく目を見開き、細め、繰り返し。僕はこの世界を懸命に見た。


・・・・・・


「そういえばこの水、飲めないなんてことないよね?」

湖の前で立ち止まり、僕は今更思い出す。

・・・ここ50年間、人類が未だ他世界へ拠点を築けない、そのワケを。


ーーーーーー

『レーゼに愛されぬ我々は、世界から迫害された存在である』

とある新興宗教が掲げる教義の一説にこんな言葉が綴られている。

この教義に賛同などはできないが、確かに僕ら人間はレーゼを長期間浴びることができないのであった。

確認されている影響で、最も深刻な症状はレーゼ汚染による精神崩壊だろう。

少量ならば問題ないが、

・濃いレーゼを長時間浴び続ける

・レーゼ汚染の高い物を使用、摂取する

などの行動は、極めて危険とされている。


また現行世界の物質全てが、長期間のレーゼ汚染によって、形が崩壊し「ロア」と呼ばれる白い灰のようになってしまう。

他世界の物質は現行世界でも問題ないのに、とても不思議な話であった。


また精霊糸の使用には、いくつかの条件が存在しており、それらがネックとなって、現状人類は他世界進出に、てをこまねいていた。

ーーーーーーーーーーー


情けない顔をした僕が湖面でゆらゆらと揺れる。

ゴクリと・・・喉を鳴らすこともできない。昨日から何も飲食していない。奴らに追いかけ回されて、もはや口の中はしわしわだ。

・・・ポケットに手を突っ込んで、傷んだリンゴを取りした。目に涙こそたまらぬが・・・これは水分不足の弊害だ。僕が強い心を手にするのは、まだまだ先のようである。

『シャキリッ。』

僕はリンゴを大きく頬張った。


今日中にクエストの素材を集めないと3日目を待たずに、僕の体力が先に尽きるな・・リンゴはとても美味しかったが、あれだけではどう考えてもエネルギー不足だ。

心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。体が生命の危機を訴えている。

幸いなことにロージアの花は、遠く湖畔に沿った場所で咲いていた。自慢ではないが、僕の視力は2.0だ。

異形の精霊様は、なるべく新鮮な状態がいいって言っていたし、採取は後回でいいだろう。

となると、次はロッシーの実だけど。。。おそらく、先ほどから嫌がらせのように爆発して、顔面や、この服にべっちょりと付いたこれなんだよな。確か、まだまだ実ってたし・・・戻るか。

僕は、大きくため息をついて、もう一度森の中へ踏み出した。


ロッシーの実は、緑の多い森の中では異様なほど真っ赤に輝いており、追いかけ回された道を辿ると、あっさり見つかった。そして、不思議なことにロッシーの実も僕を見ていた。

「!?」

凹みすらない、ツルツルサーフェイスなのだが、なぜだかニヤッと実が笑った気がした。それと同時に爆発し、お馴染みの赤い汁を撒き散らす。僕は回避することもままならず、顔面でその果汁を受け止める。うう。渋っぶい!!まっず!!


・・・僕は草むらに身を隠す。右手にはナイフを緩く握り、左手には拳ほどの石を掴みこむ。

気づかれずに一撃で仕留めなければならない。息を殺してその時を待つ。

ゆっくりと、その実は回っていた。おそらくターゲットを探しているのだろう。僕はこれ以上ないほどにべちょべちょだ。それが意味するところとは。

深呼吸を一つ吐き出し、石をポーンと茂みへと投げ入れる。

「ガサッ」

「!?」

石が茂みにぶつかり、音が鳴る。ロッシーの実が勢いよくそちらを振り向いた。

ははっ!僕に背中を、隙を見せたな!!

「間抜けめ!!!」

僕は全力で茂みから飛び出すと、ぶら下がっていた茎をめがけてナイフを一直線に振りきった。

「!?・・・。」

茎を切られたロッシーの実は、悔しそうな顔を一瞬し、爆破することなくそのまま地面に崩れ去る。


ロッシーの実を狩ること3時間余り、試行錯誤のすえに辿り着いた完璧な作戦で、僕は依頼された個数を手に入れた。

妙な達成感があった。何か大きなことを成し遂げた気分だ。

・・・さっさと体洗おう。僕はロッシーの実を抱え、もう一度湖を目指して、よろよろと歩き出したのであった。


・・・・・・


「ああ、最高の気分だ・・・。」

僕は、全てを投げ打って湖に浮いていた。空は青く、風は心地いい。

僕と世界を遮るものは何もない。

ケロケロとよく通るカエルの声が、また良いBGMとなっている。

「ああ。いい声だな〜。心安らぐよ。」


ロッシーの汁汚れは強烈だった。洋服に、髪の毛に、そして顔面にベッタリと居座ったその汁は、軽く濯ぐ程度ではまるでびくともしなかったのだ。

懸命に洗えば洗うほど、僕はどんどん、ずぶ濡れる。そして、一つの真理に辿り着く。

面倒だし、僕が湖に浸かってしまえばいいんだ!!・・・と。


しばらくぷかぷか浮いていると、僕の周りの水が赤く染まりだしていた。どうやら体から、ロッシーの汁が抜けていようである。

湖畔の枝にひっかけて湖に浸け置いている衣類からも、赤い汁が抜け出している。

いい感じ、いい感じ。

上機嫌で水に浮かんでいると、小魚のような魔性生物が口をパクパクさせながら寄ってきた。お?こいつは、エビのような見た目だな。

「あはは。可愛い奴らめ。僕って随分、人気だなあ。」

呑気な言葉が口から溢れる。しかし、必死に口を動かして何をしているんだろう?

 ・・・ん?もしかして?

「ロッシーの汁に釣られてる?」


僕の脳内回路が連想ゲームを始め、そしてここが他世界なのを思い出す。

もしや、やばいのも来ちゃったりしますか?

急いで周りをキョロキョロ見渡すと、遠くの方でつぅっと小さく突き出た刃物ような何かが湖面を切るように滑っていた。そして、とぽんと小さな音を立てて湖の中へと姿をくらます。

これは。はい。絶対何かに狙われていますね!!ロッシーの実、人気すぎ!?


気付けば、僕に群がる”小魚”たちは、既に散っていた。

 ー何か!何か、あれに対抗できるものは。。。って、まずい!今、全裸だ!!

僅かな逡巡がまさに命取りになってしまった。

『ッザバァッ!!』

湖面を勢いよく突き破り、轟音と共に牙を剥いて巨大な何かが飛び出してくる。

それと目が合い、僕は驚愕で染め上がる。

「”サメ”!?ここ、淡水だよ!?って、ぎゃあああ!!」

僕のツッコミはまるで意味をなさない。悲鳴をあげながら慌てて身を翻し、間一髪で回避する。

『グァァァァッ』

ー「ぎゃああっ」

『ガァアアッ』

ー「ぎゃあああ」

『ガアアアア』

ー「ひゃああああ」

『・・・ガアアアアアアア!!!』

ー『ッケロケロケロケロ!!!!!』


バコォォンッ!!

強烈な破裂音を撒き散らし、”サメ”のような魔性生物が勢いよく湖面に叩きつけられる。

そして強烈な水飛沫で湖面を盛大に荒らして、

『チーン。』という効果音が聞こえるほどに情けなく、プカリプカリと浮かび始める。

・・・その”サメ”の上に、先ほど見事な蹴りを繰り出した小さき猛者が、気品溢れる佇まいで僕を見下ろしていた。

 ー僕はその勇姿を一生忘れることはないだろう。

「ケロケロ。」

その、お姿は・・・・そう、まさに。アマガエルであった。

綺麗な緑色の体表と、白いお腹。金色の瞳。

 ーまあ、少し大きすぎる気もするけど。ね。

「・・・ケロケロ。」

「ハッ!」

僕は慌てて岸へ泳ぎ渡ると、全力を込めて土下座を繰り出す。見た目がアマガエルだからといって、手を抜くなんて愚かなことは決してしない。きっと、先ほどからずっと鳴いていた声の主だ。

「煩くして、本当!ごめんなさぁぁい!!!」

熱量と静穏さを全力で込めて、僕は必死に頭を下げる。

言葉尻はデクレッシェンドだ!

「・・・ケロリ。」

”アマガエル”様は、納得したのか、僕を一瞥すると小さく飛び跳ね、水の中へ去ってゆく。

 どうやら許してもらえたらしい。僕の方が煩かったはずなんだけどね。。。

 ー何せ、絶叫してたからさ。ははっ。


”サメ”に襲われこそしたが、ロッシーの汁はいい感じに落とすことができてよかった。まだ少し色が残ってしまっているがこれは許容できる範囲だろう。

僕が湖から出るのと同時期に、蹴り飛ばされた”サメ”がよろよろと水中へ去っていった。

 君も災難だったね。・・・海へお帰り。

しかし、ロッシーの実があんなに魔性生物に人気とは。適当に木のそばに並べていたが、ちゃんと隠しておかないと持ち去られてしまうかもしれない。衣類も干したいし。。。

やっぱり、小さな拠点を作っておこう。

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世界はパシリ(’ロ’*!!?)を求めてる!! oyobi_suuki @oyobi_suuki

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