純然たる「パシリ」の爆誕である! に!

残念だが荷車とはしばしの別れだ。この森では、流石に引いて歩けない。・・・香水とノート&ペンも置いていこう。

僕はドギマギしながら、鬱蒼とした森の中へと踏み出した。


知識では知っていたが、第一世界の森は想像以上にぶっ飛んでいた。百聞は一見にしかずとはよく言ったものである。

ーこれって、もしかしてあのめっちゃお高い黒麗木?すごい!初めて見た!

僕は、踏み入れた森の世界に、感動していた。目の前に生きた世界が飛び込んでくる。

ーん?あれは!!ショウ菊花!?こんなに勢いよく回ってたのか!

菊のような花が高速で回転し、花粉をビュンビュン飛ばしている。


赤い実は、バンッと大きな音を立てて爆発してるし、カブトムシのような見た目をした虫は、頭に樹液を乗せて、2人1組で踊っている。

あ!片割れが隙をつかれて、投げ飛ばされたぞ!


思わず笑みが溢れでる。なんだこれ!もっと見たいしもっと知りたい!

高鳴る鼓動に駆動され、僕の好奇心は止まらない。

ーピピアちゃん!ピピアちゃんはいずこに!?


「ヨォ!ヨォ!!ヨォ!!!」

不吉な鳥の鳴き声で、僕はハッと我に帰った。

気付けば、薄暗い森はさらに暗さを増していた。

あ。今何時ですか?


ガタガタと体が揺れはじめる。地面も振動している。

ッドドドドドドドドド!!!


・・・仏頂面で前を見る。

大量の巨大な人参の様な植物(?)が地響きと共にものすごい様相で駆けている。

脇目も振らず、僕に向かって・・・僕に?

「なんでこっちに向かって来るのぉ!?」

否応なく僕も走り出す。これに轢かれたら死んでしまう。


「ああああああ!」

呪詛を込めて叫びながら、僕は全力で森を走るが、奴ら、先端が二股になった小さな根を巧みに操りどんどん距離を詰めてくる。

今日の僕は、あまりに不運だ!!

蔦を掻き分け、倒木を乗り越え、やばそうな魔性生物をなんとかかわして必死に走る。だが全然振り切れない。

軽い傾斜を下る。小石や落ち葉が足を滑らせ、何度もバランスが崩れかける。

ーって、やばい!この先、下り坂!


急いでブレーキをかけて、進路を変えようとしたその眼前に、ヌッと赤い実が現れて、その身を勢いよく爆発させた。

「は?っぎゃあ!?」

顔面に汁が撒き散らされて、僕は思わず目を瞑る。足がよろける。何かを踏んづけ、足がもつれる。・・・ツルッ。(’ア’;!?)

ーあっ、しまっtあだだだだだ!!」

避けたかった下り坂に突っ込んで、僕はごろごろ落っこちていく。

「ぐえ!!ぐえ!!ぐえ!!」

坂の終点で華麗に放られ、僕の体がバウンドしていく。


「うぅ!いったい!!そして、この汁、まっずい!!」

挫けそうになる心を叱咤して、瞼を拭って目を開ける。

そして。

僕の闘志は驚きにより、霧散した。

そこは、まさに不毛であった。

森と地続きであることが信じられないほど痛ましく、大地が裸に剥き出され、植物も生物も何もなく、遠くまで広がる茶色い地表に、無数の穴だけが空いている。

そしてそこに降り注ぐ、星と月と太陽の残滓が、がっぽりと開いた空の彼方で、遮られることなく僕に届いた。

口がぽかんと開いてしまう。


「っは!、しまっ。。。!!」

大きくなる振動で我にかえれば、奴ら”人参”は僕の真後ろまで迫ってきていた。

しかも、僕が転がり落ちた下り坂を優雅に滑り降りてきやがる!くぅぅぅううう!!


僕は恐怖と悔しさ(?)のあまりに、頭を抱え縮みこむ。

「轢かれるぅ!!!」

『んんんんんんあ!!ットウ!!』

『とうっ!!ズボッ!』『とうっ!!ズボッ!』『とうっ!!ズボッ!』


・・・なんだこの声?

ダメージを覚悟した僕を嘲笑うように放たれた、奇声に顔を見上げれば、”人参”たちは優雅(?)に力強く、坂を蹴とばし跳ねていた。

ーそして月光を一瞬遮っては、ズボズボと地面の穴に突き刺さる。


・・・そういえば、こいつらってもしかして「ベジップ」の一種なの?


ーーーーーーーーーーー

野菜のような見た目をした魔性生物。

奴らはとんでもないバイタリティで、絶命するまで激しく動き回るくせに、絶命すると急速に干からびてしまうため、倒しても得るものがなく、ハンターを中心に嫌われている。

ーーーーーーーーーーー


僕は体を懸命に動かし、後続に巻き込まれないよう、避難する。

なんとか、生き延びることができたみたいだ。

だが、なぜだろう?・・・本当にすっごく悔しいんだが・・・


一連の騒動が落ち着いたころには、世界は夜へと移行していた。

星や月がその光を如何無く振って、こんな僕でさえも慰めていく。

べジップたちも、あれだけ暴れ回っていたのが嘘のように、土の中でじっとしている。

もしかして、寝ているのだろうか?


月明かりを頼りにして、僕は少しだけ、この土地を歩く。

それは静謐で。漠然で。風がゴオッと吹き抜けて。虫の音が、周囲の音を支配して。


しばらく僕は突っ立って、何か脅威を警戒したが、この場所はただただ静かであって、気づけば星々をじっと見ていた。


・・・・・・・


目覚ましの音が聞こえる。もう朝か。

まどろむ意識を手で擦り、僕はゆっくり目を開ける。

あれから、耐え難い睡魔に襲われて、僕は深く眠ってしまった。


昨日の出来事は、夢であれ!!と、期待を込めて辺りを見るが。

 ここは紛うことなき他世界で・・・ベジップの隙間に僕はいた。


よく寝たはずなのに、体の至る所が痛みと違和感を主張してくる。昨日、何も食べてないし何も飲んでないもんなぁ。

クエストも残り2日。万事休すだ。


重い体を持ち上げて、顔もゆっくり上げていく。

空は、星を半分宿した薄明かり。美しい藍と水色のグラデーションが美しい。

昨日の温度を忘れた空気が、鼻腔から肺に入って抜けていき、もう一度入って。・・・抜けてゆく。

地面に手を突き、この不思議な大地を握りしめ。それは固まることなくサラサラと僕の手のひらからこぼれゆく。

おそらく、この大地はレーゼの影響で変容しているのだろう。草木が生えないなど普通ではないから。

 ・・・べジップたちの移動の理由もそこにある?のかな?

一抹の疑問が宙を舞う。僕は拙い推理を立てる。

べジップたちは、この土に耐性はあっても、ここだけで生活はできないのだろう。

 だから徘徊しているはずだ。

  ーならば、奴らについていけば、豊かな土地、いや、水源が見つかる可能性は高いはず。


「僕はまだやれる。よね。」

僕は首に巻いた布を脱ぎ去ると、それを風呂敷のようにして土を包み込む。べジップ以外の魔性生物が嫌う土だ。何かの役に立つはずである。


そして。

巨大な質量を押し除けて、まばゆい朝日がいでたった。

地面がわずかに揺れ始める。

 ー奴らの移動が始まる前兆だ。

 

僕は巻き込まれないよう、進路とは逆側に位置付けていた。追いかけるのはきついだろうが、何としてでもついて行く。

そして、水分と、あわよくば水辺に咲くロージアの花を手に入れるのだ!


『んんんんんんあ!!ットウ!!』

次々とべジップたちが勢いよく大地から飛び上がる!

進路はっ・・・こっち!?

 

ー「なんでえええ!?!?」

僕は泣きながら、奴らに再び追い回される。

草を掻き分け、突き進む。赤い実が爆発して何度も僕に降りかかる。

まじで覚えてろ!この赤い実!!絶対、許さないからなああ!!

おおおおおおおお!」

走れ!走れ!走れ僕!!

障害物を飛び越えて、魔性生物を躱して駆けていく。

 ーはっ!!これは!!

木々の先から、光る大地がチラチラ見えるっ!

日差しだ!きっと、この先に開けた土地が見える!はず!!

おおおおおおお!!

僕は力を振り絞り、光に向かって飛び込んでいく。景色が開け、降り注ぐ。

これは!!!!まぶしっ。

そして僕の目の前に、巨大な湖が広がった。

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