002:最初の街バーク
目が覚めると、ワイは森の中にいた。
木々の隙間からは抜けるような青空が見え、心地よい風が吹き抜けていく。笛のような鳥の鳴き声が耳に心地よい。
それはいいんだが、ここはどこだ?女神め、適当な場所にワイを放り投げやがったな!どうすりゃいいんだよ!
それにしても、体がやけに軽い。年を取ってから出てきた下っ腹は消え、視界に入る腕の肌は、信じられないほど瑞々しい輝きを取り戻していた。もしかして、若い頃の姿で転生したのか?くそ、鏡がないから確かめられない!早く転生した自分の顔を見てみたい!
ワイはTシャツと短パンを着ているが、足先は靴下のみで靴を履いていない。死んだ時と同じ格好のようだ。
歩くと少し汗ばむが、いい気候だ。だが、靴がないと歩きにくいことこの上ない。いててて、困ったなぁ。
幸いなことに、目の前には馬車が通れるほどに踏み固められた道が続いていた。この先に人里があることを期待するしかない。魔物が出ないことを願いながら歩き始める。
足の痛みを堪えつつしばらく歩いていると、後方から大きな荷馬車がガラガラと音を立ててやってきた。ちょ、待て。隠れる場所がない。敵なのか?味方なのか?
固まっていると、馬車はワイの目の前で止まった。馬を操っていたのは、彫りの深い顔立ちと緑の髪をした、体格の良い青年。どう見ても日本人とはかけ離れた風貌だ。
「こんな森の中でそんな格好で何をしてるんだ?魔物や盗賊が出るかもしれない、危ないぞ!」
お!言葉が通じる!これはチートだが、ありがたい!女神様のサービスか。サンキュー、女神様!
「あ、道に迷っちゃって…」
咄嗟にそう答えたが、まあ嘘ではない。
「俺は商人だ。この先のバークの街に行くところなんだが、バークに行きたいなら乗っけてってやるぞ」
「え?いいんですか?一文無しなんですけど〜」
「ははは、金なんかとんないよ!」
おおっ、いきなり親切な人に出会ってしまった!幸先がいいな!異世界、いい世界っぽい!
「ぜひお願いします!」
羊のような角を持つ大きな二頭の馬が引く荷馬車は、樽や木箱でぎっしりだ。狭い隙間にどうにか身を置くが、贅沢は言っていられない。だが、その振動にはまいった。異世界もののアニメだと馬車は高級車のようにスムーズで快適そうだが、ここは木の車輪と未舗装のデコボコ道だ。サスペンションなどあるわけもなく、わずかな段差でも拷問のような衝撃が襲う。洗濯機の中にいるような地獄の時間を数時間過ごし、なんとかバークという街に到着したようだ。
バークの街は、想像をはるかに超える大都会だった。
ゲームや漫画の定石通り、最初の街は小さくのどかな村のようなものを想像していたワイは面食らう。眼前に広がるのは、喧騒に満ちた活気ある大都市だった。
街並みは典型的な中世ファンタジーの様相だ。煉瓦や石造りの重厚な建物が立ち並ぶが、なぜかどことなくアジア的な意匠が混じっている。窓にはガラスがなく、木製のルーバー窓や、繊細な透かし彫りの施された窓がはめ込まれている。日差しを遮るための布のシェードが風に揺れているのが見える。
美しく整備された石畳の道は、絶え間なく人であふれかえっている。馬車がガラガラと行き交い、人が乗った馬もカパカパ走り回っている。
街行く人々は老若男女を問わず、美形が多い。髪の色はカラフルで、彫りの深い顔立ち。特筆すべきは均整のとれた美しいスタイルで、男は筋肉質でマッチョが多く、女性は腰の位置が高く足がスラリと伸びていてみなセクシーだ。それだけではない。彼らは肌の露出に抵抗がないようで、体のラインがくっきりとわかる薄着の者が多い。どうやらブラジャーという概念が一般的ではないらしく、服の下で豊満な胸を大きく揺らしながら歩く女性も少なくない。なんという眼福!異世界に来て本当に良かった!ただし、肥満体型の白髪の老婆もまたヘソ出しのタンクトップを着用しているけどね。でも、みな屈託のない笑顔で人生を謳歌している感じだ。
人族以外にも、犬や猫のような耳を生やした、いわゆる獣人の姿もちらほら見かける。これにはさすがに興奮した。ファンタジーの世界が、本物の現実として目の前に広がっているのだ。
さらに驚かされたのは、街中を闊歩する巨大な魔獣の存在だった。
高さ5メートルは優に超える象のような怪物が、魔獣使いに引き連れられて歩いているのだ。どうやら、通行人に芋のような餌を売って与えさせる、見世物のような商売をしているらしい。魔獣はよく調教されているようだが、その迫力はやはり圧巻で、正直なところ少し怖い。
そんな中、利発そうなお子様が、餌やりに挑戦するようだ。おっかなびっくり棒の先に突き刺した芋を魔獣の前に差し出すと、魔獣は白い牙を剥き、紫色の長い舌を風のように出し、それをペロリと平らげてしまった。一瞬の出来事に、お子様はただただ茫然。それから、両親の顔を見て安堵の苦笑いを浮かべた。
見るものすべてに驚き、感嘆するワイに、荷馬車の男は半ば呆れたように言った。
「なんだ、都会に来たのは初めてかい?よっぽど田舎から出てきたんだな」
「いやいや、これは興奮せずにはいられないでしょ!すごすぎる!」
「ははは、面白い奴だな。とりあえず、靴がないとまともに歩けないだろ?買ってやるよ」
え?靴がないのはバレてたか。ありがたいけど、そんな甘えるわけには...
「困ってる奴は助けることにしてるんだ。商売人の基本だ。気にすんな!」
そう言って靴と、下着や着替えまで買ってもらってしまった。
「じゃあ、仕事があるから俺はここでいいよな。俺の名はディー。この町で商売をしてるから、もし何か困ったことがあったら、俺の店に来てくれ。場所はギルドで『ディーの店』って聞けば教えてくれる」
「あ、ありがとう、ディー。助かりました」
エムはニカッと白い歯を見せて笑った。
「いいってことよ。この街に長く居て何かやるなら、まずはギルドに名前の登録をしておいた方がいいぜ。登録しておくと何かと便利だからな。
ところで、あんたの名はなんていうんだい?」
ワイの名?咄嗟に答えようとして、焦った。ワイの漫画家時代のペンネーム「ぐれいてすと」が頭に浮かんだが、ディーなんてアルファベットみたいな名前を言われたせいか、その頭文字をとってこう答えてしまった。
「ジーです」
「ジーか。じゃあな、ジー。
今ちょうどこの街で祭りをやってる最中だから、楽しんでいってくれ」
ディーは荷馬車を引いて去っていった。最後まで爽やかな青年だった。
しかし、名前がジーになってしまったな。安易に決めちゃったけど、よかったのか?まあいいや。
それにしても、腹が減った!お腹がぺこぺこだ。ギルドに登録や祭りというのも気になるが、まずは何か食べたい!
でもお金を全く持っていない!一文無しである。
しまった、さっきディーに相談すればよかったな。でも甘えてばっかじゃ悪いしな。
どうしたものか。
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