第3話 日本へ
世界に類例がないなら、せめて日本国内にはあるだろうか。
桃太郎が「日本的」な何かを反映しているのなら、他の日本の昔話にも同様のパターンがあるはずだ。
私は日本の昔話を片端から調べ始めた。
* * *
浦島太郎。亀を助けた漁師が、竜宮城へ連れて行ってもらう。亀は浦島を「案内」するが、「家来」ではない。恩返しとして導いているだけだ。
花咲か爺。犬が「ここ掘れワンワン」と宝を見つける。犬は老夫婦の「ペット」であり「家来」ではない。主従関係というより、愛玩動物と飼い主の絆である。
金太郎。熊と相撲を取る。動物たちは金太郎の「遊び相手」であり「友達」である。上下関係はない。
舌切り雀。雀は老夫婦に恩返しをする。雀が「家来」になるわけではない。
鶴の恩返し。鶴は恩人のために機を織る。これも恩返しであり、主従関係ではない。
猿蟹合戦。蟹の仇討ちに、栗、蜂、臼、牛糞が協力する。彼らは「仲間」として蟹に加勢するのであり、蟹の「家来」ではない。
* * *
驚くべき結果が出た。
日本の昔話の中でさえ、「動物を家来にする」パターンは桃太郎以外にない。
他の昔話に登場する動物たちは、恩返しをしたり、友達になったり、協力したりする。しかし「家来」にはならない。主人と従者という上下関係は、どこにも見当たらない。
これは「日本文化」では説明できない。日本文化の中でも、桃太郎だけが異常なのだ。
謎は深まるばかりだった。
なぜ桃太郎だけが、こんなにも特殊なのか。
世界に類例がない。日本国内にも類例がない。桃太郎という物語それ自体に、何か秘密があるのではないか。
私は発想を転換することにした。
「どこに」ではなく、「いつから」を問うてみよう。
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