第37話
三十日間の入院を経て、六人はついに揃って退院の日を迎えました。
入院中、彼らの病室には連日のように大司教や各国の軍参謀本部たちが訪れ、地下都市の惨状とアニマ=ゼロの正体についての報告が行われました。
「申し訳ありません。各国から下賜された宝剣も大楯も……すべて破壊し尽くされ、再生不能となりました」
ディオンがベッドの上で深々と頭を下げると、アリステア女王は微笑んで首を振りました。
「武具は持ち主を護ってこそ誉れ。万の民を救って砕けたのなら、その剣は伝説となって語り継がれるでしょう。謝る必要などありません」
退院後、一行は王城の一角にある贅を尽くした「小城」を貸し与えられました。
大晩餐会を二日後に控え、リニとバハル、ディオンとアルベローゼが落ち着いた時間を過ごす中、エリカのソワソワは限界に達していました。
「……ライナスのバカ。あんなに盛大に言っておいて、退院してから一言も触れないなんて……!」
中庭のテラスで、エリカはドレスの裾をいじりながら独り言を漏らします。
「エリカ、そんなに地面を睨んでると穴が空いちゃうわよ?」
背後から、ディオンに肩を貸してもらいながらアルベローゼが冷やかしにやってきました。
共に地獄を生き延びた仲間たちに、もはや壁など存在しません。
「アルちゃん……! 痛くないの? その腕」
「痛いわよ! でも、ディオンがこうして支えてくれるから平気。それよりエリカ、ライナスに『あれ、本気?』って聞かないの?」
「……聞けるわけないじゃない!」
二日後の夜。
聖王城の広間は、数千の魔導灯と金銀の装飾で埋め尽くされました。
女王エレオノーラの宣言と共に、万雷の拍手が鳴り響きます。
その頃、会場の隅でライナスが意を決してエリカをバルコニーへ連れ出していました。
「……エリカ。あの、地下でのことなんだけど」
ライナスが顔を真っ赤にして切り出すと、エリカの心臓は激しく鼓動しました。
「僕は……君が、ずっと前から……!」
「……バカ。遅すぎるわよ、返事くらいさせてよ。私も、大好きよ」
二人がキスをするカーテンごしのシルエットを見て、柱の影からニヤニヤと眺めている男がいました。
バハルです。
「へへっ、やりやがったな……」
バハルはその足ですたすたとディオンのところに行きました。
「お前のアニキ、やっとエリカに告白してチューしてたぜ」
そこにいたエレオノーラ女王が話題に食いつきます。
「あら! 本当に? ……ふふ、それは素晴らしいわ。地下都市の呪いを解いたのは、剣や魔法ではなく、結局のところ愛だったということね」
女王は満足げにワイングラスを傾けました。
さらに二日後。
聖都のメインストリートは、文字通り「花」で埋め尽くされました。
六人が豪華な礼装に身を包んで並び、民衆の前に姿を現した瞬間、地響きのような大歓声が巻き起こりました。
「……凄いね。本当に終わったんだ」
ディオンが御者台から手を振りながら、隣のアルベローゼに語りかけます。
「ええ。お父さんに見せたかったな……この綺麗な空と、街を」
アルベローゼが少し寂しそうに笑うと、ディオンは接合された痕の残っている彼女の左手を強く握りしめました。
「きっと見てるよ。それに、これからは僕がずっと君の隣にいる」
「……うん。約束だよ。結婚式、世界一派手にやってもらわなきゃいけないんだから!」
パレードの馬車列の中、エリカとライナスが並んで、時折照れくさそうに指を絡ませるのを、バハルが後ろから「筒抜けだぞ」と言わんばかりのニヤケ面で眺めていました。
地下の闇に葬り去られた「上級国民」たちの野望は、今、この陽光の下で生きる者たちの歓喜の声にかき消されていきました。
世界は新しく生まれ変わり、英雄たちはそれぞれの「愛」という名の未来へと歩み始めたのです。
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