零 5

愛と暮らし初めて一ヶ月が経った。俺達はまだ平和に過ごせている。


愛と一緒に過ごしている中で、ふと疑問に思ったことがあった。なぜ彼女は軍人になったのか、ということだ。愛は女性だ。別に軍人にならなくたって生きていけたはずだろうに。


考えても埒が明かないので、本人に聞いてみることにした。


「なあ、お前。なんでお前は軍人になろうと思ったんだ?」


彼女は少し考えてから答えた。


「二人の人に会いたくて、」


「人?」


「そう、大切な人達なの」


「ふうん」


「でも、私が勝手にいなくなっちゃったから、長いこと会ってないんだ」


「そうか」


「ほら、今の社会って男性は半強制的に軍隊に入らなきゃでしょ?その人達は男性だから、私も軍隊に入ればまた会えるかもって思って」


「で、その人達とは会えたのか?」


「うん。一人とはね。もう一人は、えっと、亡くなっちゃったらしくて」


「そうか。辛いことを思い出させてしまったな。すまない。」


俺は部屋を出ていこうとした。


「待って!」


愛に呼び止められた。


「零にも居るの?会いたいけど会えない人」


彼女の顔はどこか寂しそうだった。このまま一人にさせては可哀想だと思い、俺はその人のことを話すことにした。


「妹がいたんだ。一歳年下で、お前と同い年くらいのな」


「え!もしかしてその子可愛かった!?」


「いや別に。」


「ひっどぉ~い」


「お前のことじゃないだろ」


「あ、そっか。それでそれで?」


「で、妹は俺が高二の時に家出しちまったんだ。」


「それからは?」


「何も。あいつが何処にいるかも、生きているかどうかすらもわからない。正直、もう一度会うことは


諦めてるよ。」


「そっかぁ」


「でも、お前を見てると、昔の妹を思い出すよ。喋り方がそっくりだ。」



零の大切な人って妹のことだったんだぁ。ふふふ、あんなまっすぐな瞳で語られても面白いだけだし。


でも、忘れないでいてくれて良かった。


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十月志歩 @Kanna-jugatsu

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