エピローグ: 新たな日常

 春の風が心地よく吹き抜ける朝、結衣はいつものように教室の窓際に座っていた。クラスメートたちが笑い合う声が遠くから聞こえる中、結衣は窓の外に広がる桜の花を見つめていた。その花々が満開になったのは、あの出来事からちょうど半年が経った頃だった。


あの時から、結衣の心には大きな変化があった。最初は不安で、どこか逃げ出したくなるような気持ちを抱えながらも、少しずつ自分の気持ちに向き合い、前を向いて歩き始めた。


陸斗との関係も、今では自然なものになっていた。最初はぎこちなかった二人の距離も、今ではお互いにとって心地よいものとなり、無理なく会話ができるようになっていた。彼が見せる優しさや気遣いが、結衣の心にしっかりと根を張っていた。


「おはよう、結衣。」


その声に顔を上げると、そこには陸斗が立っていた。彼の手にはいつも通り、学校で配布されたプリントが握られていた。


「おはよう、陸斗先輩。」結衣は少し照れくさく笑いながら答えると、彼も自然に隣に座った。


「今日も元気そうだな。」


「うん、ありがとう。」


最近では、こうして会話を交わすのが当たり前になった。結衣にとって、陸斗がただの「クラスメート」や「部活の先輩」ではなく、心から信頼できる存在になっていたことに気づく度に、何とも言えない温かい気持ちが込み上げてきた。


その日、放課後、結衣は部活を終えた後に陸斗と待ち合わせをしていた。彼との約束は、もうすっかり日常の一部となっていて、少しずつその関係が形を成してきていることを実感していた。


2. 未来の予感


放課後、二人はいつものように並んで帰路を歩きながら、軽い話をしていた。何気ない会話の中に、互いの気持ちが少しずつ深まっていくことを感じていた。


結衣はふと、立ち止まって彼を見上げた。


「陸斗先輩…。」


彼が不思議そうに顔を向けると、結衣は少しだけ間を置いてから、続けた。


「私、もっと自分に正直に生きようと思ってる。これからも、あなたと一緒に、そうやって前に進んでいけたらいいな。」


その言葉に、陸斗はしばらく黙って考えてから、にっこりと微笑んだ。


「うん、僕もそう思ってるよ。」


その瞬間、結衣は心の中で一つの確信を得た。彼と共に歩んでいく未来は、決して簡単なものではないかもしれない。でも、それでも、どんな時もお互いに支え合いながら、一歩ずつ進んでいけることが、何よりも大切だと思えた。


3. メールの送り主


あれから結衣は、もう一度「誰か」とのメールを思い返すことがあった。最初は、相手の正体も知らず、ただ心を通わせることが嬉しくて仕方なかったあの頃。その時の気持ちを、今でも大切にしている自分がいた。


あのメールがなければ、結衣は今こうして、陸斗と一緒に過ごす時間を持つこともなかっただろう。最初は偶然の誤送信だったが、それが結衣にとっての運命を大きく変えたことを、今は素直に受け入れることができた。


そして、結衣はもう一度、携帯を手に取って、そのメールを見返した。


「結衣さん、おはよう。今日も無理せず、あなたらしく過ごしてね。」


その言葉が、今でも彼女の心を温かくしてくれる。送り主が誰であれ、そのメッセージが結衣にとってどれだけ大きな意味を持ったかを、結衣は改めて感じていた。


結局、あの「誰か」は、彼女の心の中で特別な存在となり、彼女の人生における大きな転機となった。


4. 新しい始まり


その日の帰り道、結衣と陸斗はいつものように並んで歩きながら、これからのことを少しだけ話していた。結衣は少し照れくさく、でもどこか嬉しそうに言った。


「ねえ、陸斗先輩、私、これからもずっと自分らしく生きていきたい。」


「うん、もちろんだよ。君らしく、ね。」


その言葉に、結衣は少しだけ照れくさく笑った。それでも、彼と一緒にいることで、今まで抱えていた不安や悩みが少しずつ解消されていくように感じていた。


そして、二人は歩きながら、これからも一緒に進んでいく未来を思い描いた。その未来は、まだ形にはなっていないけれど、確かな希望が感じられた。


結衣は心の中で、もう一度静かに誓った。


「これからも、前を向いて歩いていこう。」


その言葉を胸に、彼女は歩き続けた。どんな困難が待ち受けていようとも、彼女はもう一人で悩むことはない。大切な人と共に、共に支え合いながら、未来を描いていける。


そして、その先に待っている新たな一歩を踏み出すことができるように、結衣は強く、そして優しく心に誓った。


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誤送信から始まる恋 春馬 @haruma888340

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