第7章: 新たな一歩

1. 結衣の決意


結衣が心の中で固めた決意は、いつもどこか遠くの世界にあった夢のようなものではなく、目の前の現実にしっかりと根ざしたものだった。自分の気持ちを正直に、素直に受け入れること。それが、結衣がこの新しい道を歩み始めるために必要なことだと感じていた。


彼女は朝の陽ざしが差し込む窓辺に座りながら、ゆっくりと考えていた。陸斗とのやり取り、そして「誰か」のメールが教えてくれたこと。それらの出来事は、結衣にとって確かに大きな変化をもたらした。そして、今、自分がその変化の中にいるということに、少しずつ実感が湧いてきた。


「これからどうなるんだろう?」と彼女は思った。未来がどうであれ、自分自身を大切にしながら、少しずつ前に進んでいくこと。それが結衣にとって最も大切なことだと、改めて感じていた。


その日、結衣は陸斗に声をかけることを決心していた。昨日の放課後、彼と話した後から、何度も何度もその言葉を思い返していた。「君を楽にさせたかった。」という言葉。それは結衣の心に深く残り、優しく響き続けていた。


2. 陸斗との再会


学校が始まり、昼休みが近づいてきた。結衣は教室で、仲の良い友達である麻衣と一緒に昼食を食べていたが、どうしてもその言葉が気になって仕方なかった。


麻衣が何気なく話しかけてきた。


「ねえ、結衣。最近、すごく元気そうじゃない?」


結衣はふと顔を上げ、麻衣の笑顔を見た。その笑顔が、少し心を温かくした。


「うーん、ちょっとだけね。」


結衣は少し照れくさく答えたが、心の中ではその「元気さ」を支えているのは、間違いなく陸斗からの言葉だった。


「最近、誰かと話すことが多くなったんじゃない?」麻衣が興味深げに言った。


結衣は一瞬驚いたが、すぐに言葉を飲み込んだ。麻衣が感じ取っていることに、何か引っかかるような気がしていたが、結局何も言わなかった。


「まあ、ちょっとだけね。」結衣は笑って言った。


その後、麻衣と別れ、結衣は校舎の外に出て、しばらく歩きながら考えた。自分の気持ちが少しずつ整理されてきたとはいえ、それでもまだ心の中には不安や戸惑いがあった。


歩きながら、結衣はふと前方に見える陸斗の姿を目にした。彼はいつものようにクールな表情で、他の仲間と話している。結衣はその姿を見て、少し緊張しながらも、近づいていった。


「陸斗先輩。」


結衣が声をかけると、陸斗は一瞬驚いたように顔を上げ、そして穏やかな表情を浮かべて彼女を見た。


「結衣、どうした?」


「少しだけ、話したいことがあって…」


結衣は自分の言葉を選びながら、彼の前に立ち止まった。陸斗もその気配を感じ取ったのか、無言で頷いた。


「私、少し考えたんです。」


結衣はゆっくりと続けた。胸の中に溜まっていた思いを、今やっと口に出せるような気がした。


「最初は不安で、怖くて、どうしたらいいのか分からなかった。でも、あなたが送ってくれたメールを読んで、少しずつ気づいたことがあるんです。」


結衣は一度息を吸い込み、そして目を見つめながら言った。


「私は、もっと自分の気持ちに正直になっていいんだって。」


その言葉を聞いた瞬間、陸斗の表情が少し柔らかくなり、彼は静かに頷いた。


「それでいいんだよ、結衣。自分の気持ちを大切にすることが、何より大事だと思う。」


その言葉に、結衣は少し安心した。自分が抱えていた不安や恐れが、少しだけ解けた気がした。


「ありがとう、先輩。」


結衣は、心からの感謝を込めてそう言った。その時、陸斗は少し顔を赤くして、笑みを浮かべた。


「気にしなくていいよ。ただ、結衣が元気そうで良かった。」


その一言が、結衣の心をさらに温かくさせた。彼の優しさが、今まで以上に深く伝わってきたような気がした。


3. 新たな一歩


結衣と陸斗は、その後も少しだけ話をしてから、それぞれのクラスに戻った。結衣は、これからどうするべきかは分からなかった。しかし、少なくとも今は、彼の言葉に背中を押されて、前に進んでいく気持ちが強くなった。


「これから、私は自分の気持ちに正直になっていこう。」


結衣は心の中でそう誓った。これまで自分を守るために閉じ込めていた感情を、少しずつ外に出していく。それが、今の自分にできることだと感じていた。


次の日、結衣は少しだけ早く学校に着いた。心地よい朝の空気を吸い込むと、彼女は今後どう過ごしていくべきかを静かに考えていた。その時、またスマホが震えた。結衣は無意識にそれを確認する。


新たに届いていたのは、また「誰か」からのメールだった。結衣はその通知に目を留めた。


「結衣さん、おはよう。今日も無理せず、あなたらしく過ごしてね。」


そのメッセージを見たとき、結衣の胸に暖かい気持ちが広がった。送り主が誰であろうと、今の自分にはもうその人が必要だと感じていた。そして、彼女は心の中で決意を新たにした。


「私、自分らしく生きていこう。」


それが、結衣にとって最初の一歩だった。


4. 未来への期待


その日、結衣は昼休みの後、ふと校庭に出た。少し風が強かったが、その風が心地よかった。彼女はそのままベンチに腰を下ろし、深呼吸をした。すると、隣に誰かが座った。


「結衣。」


それは、陸斗だった。結衣は少し驚き、彼を見上げた。


「どうしたんですか?」


陸斗は、少し照れくさそうに言った。


「君が元気そうだって聞いたから、どうしても確認したくて。」


結衣は少し笑って言った。


「ありがとうございます。でも、これからはもっと自分のペースで進んでいこうと思います。」


その言葉に、陸斗は静かに頷き、何も言わずに彼女の隣に座った。


その日から、結衣の心は少しずつ、そして確実に変わっていった。どんな未来が待っているのかは分からないが、彼女はもうその不安に飲み込まれることなく、自分らしい生き方をすることを決めた。


そして、新しい一歩を踏み出した彼女の心には、温かい光が差し込んでいた。

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